不眠の子守唄

海外文学などの書評や洋楽のレビューを書いているブログ。

古典的名作

『イーヴリン・ウォー傑作短編集』感想ー名作家によるブラックな短編

世の中には多く「傑作集」を銘打っている本があり、時たま納得できないものもあるが、イーヴリン・ウォーの『イーヴリン・ウォー傑作短篇集』(白水社エクス・リブリス・クラシックス)は、個人的には文句なしの「傑作短編集」だ。 このブログでは、これまで…

F.S.フィツジェラルド『ベンジャミン・バトン』あらすじ・考察ー名短編のテーマとは?

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』というと映画が有名だが、原作は『グレート・ギャツビー』で有名なアメリカの小説家フランシス・スコット・フィッツジェラルドの短編である。 ご存じの方も多いと思うが、「老人の姿で生まれて、歳を重ねるごとに若返っ…

クノー『文体練習』という奇書を読む【書評・感想】

昨日レーモン・クノーの『地下鉄のザジ』の紹介をしたので、今回はクノーの『文体練習』という本について紹介しようと思う。 この本は、小説でもエッセイでもない。 ではどのような本なのかというと、この本は同じ内容の文章を、99通りの別の書き方で書いた…

クノー『地下鉄のザジ』あらすじ・感想ー価値観を揺るがす小説

『地下鉄のザジ』というと映画が有名だが、原作はレイモン・クノーによる小説である。 以前から興味はあったが、ついこの間の2021年9月に『地下鉄のザジ』がの新版が中公文庫から出たことを知ったので、読んでみた。新版でも訳は以前と変わらず生田耕作のも…

ラテンアメリカ文学の伝説的作品『ペドロ・パラモ』を読む【あらすじ・感想】

「面白いストーリー」と「面白い文学」は違う。 ーーということを最も強く実感するのは、中南米の小説を読んでいる時だ。 今回紹介するフアン・ルルフォの『ペドロ・パラモ』という小説は、ノーベル文学賞作家ガルシア・マルケスやバルガス=リョサをはじめ…

ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』あらすじ・感想ー子どものままでいることの罪

ドイツのノーベル文学賞受賞作家、ギュンター・グラス(1927~2015)の代表作に『ブリキの太鼓』という作品がある。 (映画化されているものも有名だが、この記事では原作の小説のみ取り扱う) 一行で解説すると、この小説は「主人公が生まれながらの超能力…

チェーホフ『ワーニャ伯父さん』あらすじ・感想ー絶望の中で生きるということ

先日、映画『ドライブ・マイ・カー』を観た。この映画の中で重要なモチーフとなっているのが、チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』であるが、この作品の内容が気になったので積読していたこの本を読んでみた。 今回は、『ドライブ・マイ・カー』で言及され…

フランツ・カフカ『変身』あらすじ・感想ー現代の社畜の悲劇として考察する

海外文学はそれなりに読んできたが、カフカはいまいち「わからない」という感想を持っている作家だ。 しかし、むしろ、わからないところがクセになるともいえる。面白さがよくわからなくても、読み終わると「すごいものを読んだ」という気持ちになる。 その…

ジーン・リース『サルガッソーの広い海』あらすじ・感想ー名作と植民地の暗部

「世界で最も評価されている二次創作」は、もしかするとジーン・リースの『サルガッソーの広い海』という小説かも知れない。 モダン・ライブラリーの「Modern Library 100 Best Novels」にも選ばれているこの小説は、シャーロット・ブロンテの『ジェーン・エ…

英国流のブラックユーモア小説ーイーヴリン・ウォー『大転落』【あらすじ・感想】

イーヴリン・ウォーという小説家は、日本ではそこまで有名ではないかもしれないが、イギリスでは『情事の終り』などで知られるグレアム・グリーンと双璧とされるカトリック作家であるという。 過去にこのブログでも紹介したウォーの代表作『回想のブライズヘ…

ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』あらすじ・感想ー現代小説の傑作

死後80年近く経っているにもかかわらず、最近今まで以上に注目を集めている作家がいる。イギリスの女性作家、ヴァージニア・ウルフだ。 ウルフは「女性が小説を書こうと思うなら、お金と自分一人の部屋を持たねばならない」とした講演『自分ひとりの部屋』が…

井伏鱒二『黒い雨』あらすじ・感想ー原爆の不条理さに翻弄される庶民

最近(2021年)「黒い雨訴訟」が話題となった。 「黒い雨」というのは、原爆投下後に降り注いだ、原爆投下時に生じた煤や放射性物質を含んだ、言葉通り黒色をした雨のことである。 つまり、原子爆弾によって直接被爆しなかった場合であっても、放射性物質を…

『若きウェルテルの悩み』でウェルテルはなぜ自殺したのか【あらすじ・感想】

「ウェルテル効果」という言葉がある。 有名人の自殺がマスメディアによって報道されると、それに影響されて自殺者が増える現象を表す言葉である。この名前は『若きウェルテルの悩み』の主人公ウェルテルにちなみ、この現象を実証した社会学者ディヴィッド・…

「読んではいけない」本ーセリーヌ『夜の果てへの旅』【あらすじ・感想】

東京大学出版会から出ている『教養のためのブックガイド』という本があり、おもしろいのだが、その中で一番面白いのは「読んではいけない」本も挙げられていることである。 そのような「読んではいけない15冊」として挙げられているうちのひとつが、フランス…

コンラッド『闇の奥』あらすじ・感想ー「文明」と「野蛮」の対立と親和

先日、日本語を母語としない台湾出身の李琴峰さんが、『彼岸花が咲く島』で第165回芥川賞を受賞した。母語以外での作家活動なんて私には想像もできないくらい大変だと思うが、基本的に日本語で読書をする一読者としては、李さんのような作家の活躍は非常に嬉…

最良のノスタルジー小説は『回想のブライズヘッド』である【あらすじ・感想】

コロナ禍の現在では、友人と顔を合わせて語らい、共に旅行をした日々でさえ、もはやノスタルジーの対象となってしまった。 そんなノスタルジックな気分に浸ると思い出すのは、イギリスの作家イーヴリン・ウォーの『回想のブライズヘッド』という小説だ。 最…

人間性と芸術のあいだーモーム『月と六ペンス』あらすじ・感想

タイトルが秀逸な小説と聞かれて真っ先に思い浮かぶのが、サマセット・モームの『月と六ペンス』という小説だ。 この小説は、パリでの実業家生活ののち画家に転身し、晩年はタヒチで暮らした画家ポール・ゴーギャンをモデルにした小説だ。今回は、この小説に…

男も憧れるカッコよさ―『シラノ・ド・ベルジュラック』あらすじ・感想

エドモン・ロスタンの戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』は、男のロマンみたいなところがある。 容姿に恵まれない主人公の恋が実る話だからだ。でも、そんな「ありがちの話」と思ってもらっては、困る。シラノ・ド・ベルジュラックの内面は本当にかっこいい…

クッツェー『マイケル・K』あらすじ・感想ー人はどう生きるか?

ひさびさにノーベル文学賞作家の作品を紹介したい。 今回紹介するのは、南アフリカの作家J.M.クッツェーの『マイケル・K』だ。 内戦下の南アフリカを舞台にした小説で、やはり日本の小説にはない魅力がある。 『マイケル・K』あらすじ 『マイケル・K』感想・…

ユリシーズの前にージョイス『若い藝術家の肖像』【あらすじ・感想】

ジェイムズ・ジョイスの『若い藝術家の肖像』を読んだ。 最初に正直に感想を書くと、かなり難解であった。もちろん難解さを承知で読む人がほとんどだろうが、海外文学への入門として読むことはあまりおすすめしない。 とはいっても、ジェイムズ・ジョイスの…

スタンダール『恋愛論』考察・解説ー恋はどうやって生まれるのか?

恋が始まるには、ほんの少しの希望があれば十分です。 ――スタンダール という引用から始まるマンガ作品があるが、さらに言えばこの言葉はスタンダールの『恋愛論』第三章冒頭からの引用である。 『恋愛論』という本は、恋愛について論じた本としては古典中の…

オーウェル『動物農場』あらすじ・考察ーコミカルな中のブラックな怖さ

ジョージ・オーウェルと言えば監視社会を描いた『一九八四年』が有名だが、オーウェルの出世作である『動物農場』も代表作として知られている。 『動物農場』(Animal Farm)は、副題が「おとぎばなし」(A Fairy Story)であるように、動物たちを主人公とし…

日本ゲイ小説の金字塔―三島由紀夫『禁色』【あらすじ・感想】

今月25日で三島由紀夫の没後50年である。 三島由紀夫といえば「同性愛」のイメージがつきまとうが、その中でも『禁色』(きんじき)という作品は、同性愛をテーマにしながらエンターテイメント的にも非常に面白い作品である。 同性愛をテーマにした小説で、…

とてつもない難解さゆえの中毒性―フォークナー『響きと怒り』あらすじ・感想

読んでいて、あまりに理解が追い付かなくて笑ってしまった小説がある。 「こんなのわからねーよ!」と、読んでいながらツッコんでしまうのである。 その作品こそ、ノーベル文学賞作家ウィリアム・フォークナーの代表作『響きと怒り』である。だが、もちろん…

絶対に手に入れられない虚しさ―トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』あらすじ・考察

トルーマン・カポーティの『冷血』を読んだらめちゃくちゃ面白かったので、カポーティの代表作『ティファニーで朝食を』を読み返してみた。 (『冷血』についてはこちらの記事で書いた) 『ティファニーで朝食を』は、映画だとどのような評価になるのかはわ…

第二次世界大戦×SFの名作―『スローターハウス5』感想・考察

こういうと語弊を招くかもしれないが、私は戦争文学が好きである。 戦争は絶対に繰り返してはいけないと思っているし、体験したくもない。 しかし、だからこそ戦争に巻き込まれた人々の記憶は継承されるべきであると考えているし、文学作品に描かれた戦争に…

つまらないのに、印象に残る不思議な作品―フランツ・カフカ『城』あらすじ・感想

海外文学の名作と言われるものは、確かに難解なものは多いけれど、たいていどこか興奮できるような箇所があるものである。 でも、率直に「つまらない」と思った作品もあった。 私の中でのその代表が、フランツ・カフカの『城』である。 この作品を読んでいる…

ミラン・クンデラはデビュー作の『冗談』がおすすめな理由【あらすじ・感想】

ミラン・クンデラが2020年のフランツ・カフカ賞を受賞したらしい。フランツ・カフカ賞というのは、2006年に村上春樹が受賞したことで日本でもよく知られるようになった、チェコの文学賞である。 クンデラといえば、『存在の耐えられない軽さ』があまりに有名…

史上最高のノンフィクション・ノベルーカポーティ『冷血』【あらすじ・感想】

トルーマン・カポーティというと奔放な女性を描いた『ティファニーで朝食を』のイメージが強いが、ノンフィクション・ノベルという分野を開拓した小説家でもある。カポーティが「ノンフィクション・ノベル」という境地を開いた作品こそ、この『冷血』("In C…

アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』あらすじ・感想ー主人公は地球人なのか? 宇宙人なのか?

アーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』という作品がある。 作者アーサー・C・クラークは、映画『2001年宇宙の旅』の原作者としても知られているSFの大家で、代表作である『幼年期の終わり』もSFの古典として知られている。 この作品を初めて読んだのは…