不眠の子守唄

海外文学などの書評や洋楽のレビューを書いているブログ。

読書-近現代日本文学

安部公房『壁-S・カルマ氏の犯罪』あらすじ・感想ー「名前」を失った人間の話

安部公房は、日本で最もノーベル文学賞に近かった作家の一人であると言われる。 それは安部公房が海外で高く評価されていたからであるが、現代の私が読んでみても、安部公房の作品は「海外文学的」である。もちろん安部公房の作品が生まれた土壌には渺茫とし…

『燃えよ剣』の土方歳三像の考察【司馬遼太郎の原作小説&原田眞人監督の映画との違い】

司馬遼太郎の小説を原田眞人監督が映画化した映画『燃えよ剣』を観た。その後司馬遼太郎の原作『燃えよ剣』も読んだ。 まず、映画を観た感想としては、殺陣が見事である。 主演の岡田准一のアクションへのこだわりと、原田監督の「時代劇という伝統を絶やさ…

小川洋子『博士の愛した数式』は最高の野球小説でもある【感想】

プロ野球の日本ハムに、来季から新庄剛志が監督として就任することが決まった。 新庄剛志というと、メジャーリーグからの復帰先に日本ハムを選び、野球の実力もさることながら、華やかなパフォーマンスで注目を集めた選手である。エンターテイナーとして随一…

映画『ドライブ・マイ・カー』と、村上春樹の原作との違いと【感想】

映画『ドライブ・マイ・カー』を観たので、今更ながら感想を書こうと思う。 この映画は、村上春樹の短編集『女のいない男たち』に所収されている短編「ドライブ・マイ・カー」を原作とする、濱口竜介監督による映画である。カンヌ国際映画祭で脚本賞も受賞し…

井伏鱒二『黒い雨』あらすじ・感想ー原爆の不条理さに翻弄される庶民

最近(2021年)「黒い雨訴訟」が話題となった。 「黒い雨」というのは、原爆投下後に降り注いだ、原爆投下時に生じた煤や放射性物質を含んだ、言葉通り黒色をした雨のことである。 つまり、原子爆弾によって直接被爆しなかった場合であっても、放射性物質を…

文庫1冊以内! おすすめの日本文学の名作10選

このブログでは海外文学ばかり取り上げてきたが、日本文学も好きである。 以前海外文学のおすすめ10選を取り上げたので、せっかくなので対になるように日本文学のおすすめもしてみようと思う。 海外文学には、その地域特有の文学の魅力がある。しかし、日本…

宇佐美りん『推し、燃ゆ』は、若者だけの話ではない【感想・考察】

第164回芥川賞に輝いた『推し、燃ゆ』(おし、もゆ)を読んだ。 結論から言うと、主人公にあまり共感は出来なかった。だが、主人公に共感できないというのは、小説が面白くないということではない。小説としては「推し」という現代的なテーマを純文学で描い…

日本ゲイ小説の金字塔―三島由紀夫『禁色』【あらすじ・感想】

今月25日で三島由紀夫の没後50年である。 三島由紀夫といえば「同性愛」のイメージがつきまとうが、その中でも『禁色』(きんじき)という作品は、同性愛をテーマにしながらエンターテイメント的にも非常に面白い作品である。 同性愛をテーマにした小説で、…

星新一の作品を大人にこそおすすめしたい理由【ショートショートの神様】

私の中学時代の読書体験の80%は星新一で出来ていると言ってよい。 しかし、中学から高校に入ると、私は星新一を「卒業」してしまった。 それは、一つには星新一作品をほぼ読みつくしたからであるが、もう一つには高校生になって星新一を読んでいるのはダサい…

安部公房『砂の女』あらすじ・考察ー外出自粛の経験から、囚われの男に思いを馳せる

一人でふらっと電車で遠出をする。駅を降りて、見知らぬ街をふらりと歩く。 私は、そういう小旅行が好きだ。でも、そうしていると時々「今、自分が誰かに連れ去られた時、知人や家族は自分を見つけ出してくれるのだろうか?」という不安に襲われることもある…

三島由紀夫『美しい星』あらすじ・考察ー異端のSF、だけど三島ワールド

三島由紀夫に『美しい星』という作品がある。 三島作品としては異色なSF的作品であり、「変わった作品」とみられることが多い。 しかし、私は三島作品の中でこの作品が一番好きかもしれない。それはこの小説が、私の初めて読んだ三島作品だからでもあるのだ…

内田百閒『百鬼園随筆』の魅力を書く

現代作家で誰の文章が好きかと聞かれたら、森見登美彦と答える。 森見登美彦の文体はやや古風なところがあり、面白いし独特なリズム感が大好きな作家である。そんな森見登美彦の文体に大きな影響を与えたのは、内田百閒だという(出典:作家の読書道:第65回…

遠藤周作『海と毒薬』あらすじ・感想ー世界を麻痺させる「毒薬」とは何か考察する

「僕のヒーローアカデミア」(「ヒロアカ」)が最近(2020年2月)炎上し、週刊少年ジャンプ編集部が謝罪文を出すまでになった。さまざまな流言が流布しているが、文学好きとして思い出すのは遠藤周作「海と毒薬」だろう。作者遠藤周作は、この作品を通じて何…