イギリス・マンチェスター出身の伝説的バンド・New Order(ニューオーダー)の9年ぶりの来日公演が2025年2月に行われた。2月25日に大阪のZepp Nambaで、27日に東京の有明アリーナで公演が開かれた。
最近、昔から活躍している洋楽アーティストの来日公演に行っている。彼らも日本にそう頻繁に来られるわけでもないので、最後の来日公演になるかも知れないと思いが湧くからである。だが私が死んでしまっては、私の記憶も残らないので、見た公演の記録をすることにする。
電気グルーヴセトリ
この日の公演で、前座として登場したのは電気グルーヴ。
よく知られていると思うが、電気グルーヴの結成のきっかけは、ニューオーダーの「Blue Monday」を石野卓球がピエール瀧に聴かせたことだった。ニューオーダーなくして電気グルーヴは存在しなかったのである。
18時半公演開始だったが、18時半から電気グルーヴがパフォーマンス。セットリストは以下の通りだった。
#1 人間大統領
#2 Shangri-La
#3 モノノケダンス
#4 DISCO UNION
#5 Fallin’ Down
#6 SHAMEFUL
#7 Fake It!
#8 N.O.
#9 FLASHBACK DISCO
一曲目は「人間大統領」。曲の途中で(たしか)ピエール瀧が「今日は“マンチェスター大統領”ニューオーダーをお楽しみください!」というような発言をし、盛り上がる。
New Orderからタイトルをとったという名曲「N.O.」も、もちろん演奏。「N.O.」で最後かと思ったらもう一曲演じてくれた。30分強のパフォーマンスで全9曲。
New Orderセトリ
インターバルを挟んで、満を持してニューオーダーが登場。セットリストは以下の通り。
#1 Transmission ※Joy Divisionの曲
#2 Crystal
#3 Ceremony
#4 Age of Consent
#5 Isolation ※Joy Divisionの曲
#5 Krafty (Japanese ver.)
#6 Your Silent Face
#7 State of the Nation
#8 Be a Rebel
#9 Sub-Culture
#10 Bizarre Love Triangle
#11 Vanishing Point
#12 Plastic
#13 True Faith
#14 Blue Monday
#15 Temptation
#16 Atmosphere ※Joy Divisionの曲
#17 Love Will Tear Us Apart ※Joy Divisionの曲
調べたところ、大阪公演と全く同じセットリストだった。
「あれ、この曲演奏しないんだ」と思った有名曲は「Regret」くらいしかないという、びっちりと代表曲が詰まったセトリでした。(もちろん、これも聞きたかったな、という曲はたくさんあるけれど)
《感想》New Order 2025東京公演
私の英語力と記憶力の問題で、MC箇所についてはあまり自信がないのだが、それぞれの曲を振り返っていきたい。
New Orderのメンバーたち
最初に昔の日本の映像などをコラージュのようにしたかっこいい映像とともにスタート。ニューオーダーといえば、優れたアルバムジャケットのデザインもそうだが、(その音楽以上に)洗練された視覚的効果が魅力の一つだが、それを味わうことができたのは非常によかった。

1曲目は「Transmission」。いきなりJoy Divisionの楽曲からスタート。
このページを見てくれた方には不要な説明かもしれないが、New Orderというバンドは、前身がJoy Division(ジョイ・ディヴィジョン)というバンドだった。だがイアン・カーティスというフロントマンが、バンドが知名度を上げてきたところで、1980年にわずか23歳にして、癲癇などの持病や妻と愛人との三角関係に悩み自殺してしまう。バンドは「New Order」と改名し、ギタリストのバーナード・サムナーをボーカルにして活動を継続することにした。

ベーシストのピーター・フックは2007年に脱退し完全に断絶状態だが、ドラムのスティーヴン・モリスはJoy Division時代からのメンバー。

モリスの妻(加入当初は彼女)でもあるジリアン・ギルバートはJoy Divisionの正式なメンバーではないが、Joy Divisionのライブにサポートメンバーとして参加したこともあり、New Orderを草創期から支えているメンバーである。

「Transmission」は、Joy Division時代の映像だと、イアン・カーティスの独特のダンスが印象的だが、バーナード・サムナーは踊ったりしない。また声量も、正直あまり出ていなかったが……バーナード・サムナーは優れたソングライターである一方で歌は上手くないのは周知の事実なので、大きな問題ではない。
2曲目は「Crystal」。1曲目はJoy Divisionの曲を演奏したけれど、次は僕たちの歌を歌うよ、みたいな内容のMCが入っていた。
3曲目は「Ceremony」これも「Joy Divisionの曲」とバーナード・サムナーが紹介してから演奏が始まった。「Ceremony」という曲は、Joy Divisionのイアン・カーティスが生前最後に書いた曲の一つで、イアンの生前にデモは録音されていたが、イアンの死後にJoy DivisionではなくNew Orderの曲として仕上げられて発表されている。だから「Ceremony」はリスナーには普通「New Orderの曲」と受け止められていると思うが、確かに本人たちからしたらこの曲はJoy Divisionの曲なのだなと再認識した。
4曲目は「Age of Consent」。名盤『Power Corruption & Lies』の一曲目。次はまたJoy Divisionの「Isolation」。
日本公演仕様の曲たち
5曲目の「Krafty」は日本語バージョン。せっかくバーナード・サムナーが日本語の歌詞を覚えてきてくれたのに、日本語バージョンの歌詞を知らなかった……大阪公演の情報は事前に仕入れていたのに、日本語バージョンの歌詞を予習していなかったので反省。
でも公演終了後に、(特にサビがなんと言っているのかわからなかったので)歌詞を調べたが、サビの部分は、原曲では
Just give me one more day, give me onother night
と謳われている部分が、この日本語詞では
先に暗号で 君をなさない
となっているとのこと。空耳アワー的というか……ちょっと面白い。 ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が日本語訳は手掛けているものだとのこと。
次の「Your Silent Face」では、イントロと間奏でバーナード・サムナーがピアニカを弾く場面があった。指先が覚束ないなか、ものすごく頑張って弾いていて、特に間奏の最後の方はうまく弾けていなかった気がするけれど、弾き終えると温かい拍手に包まれていた。
外国でこの規模の観客を集める69歳のミュージシャンが、小学生でも得意な児童なら簡単に弾けそうなフレーズを弾いて拍手に包まれるというのは、よく考えてみるとよく分からない光景だが、ニューオーダーはそれが許されるのだ。
その次の7曲目が始まる前に、「これは東京についての曲なんだ」というMCが入る。
そして始まった「State of the Nation」は、タイトル自体も「国の首都」という意味だが、この曲のデモは東京で行われている(さらにこの曲は、当初は坂本龍一がプロデュースを行う予定であったが、坂本側の事情によりキャンセルとなったというエピソードもあるという)。
「State of the Nation」はアルバム『Brotherfood』の再発盤でボーナストラック的に入れられている曲として、一般的なファンには知られていると思う。このアルバムに収録されている曲だと、現在はこの曲よりも「Bizarre Love Triangle」の方が有名だと思うが、発表当初は「State of the Nation」の方がチャートの順位は上だったほどの名曲である。だがこの曲がライブで披露されたのは、確認されるところによると30年以上ぶりらしく、MCでも触れられていた通り、日本公演のためにわざわざ準備された曲だということが伝わる。日本のファンとして嬉しい一曲だった。
若々しさも感じたセットリスト
次は2020年に発売されたシングル「Be a Rebel」。セットリストの中だと最新の曲ということで(まあ5年前ではあるが…)、なんとなく演奏も若々しかった気がした。
そして9曲目の「Sub-Culture」(個人的に一番好きなアルバム『Low Life』からの一曲)、10曲目の代表曲「Bizarre Love Triangle」は、長めの前奏から曲に入るという形。大阪のセットリストを予習してしまっていたので、どの曲が次に来るか予想ができてしまっていたのだが、予習せずにだんだんとセッションが「Sub-Culture」や「Bizarre Love Triangle」のおなじみのイントロに変化していくところで興奮を味わえばよかったかもしれない(もちろん、多数のリミックスやライブ盤を聞いたことがあるくらいの熱心なファンであればすぐにどの曲かわかるだろうけれど)。
その次の「Vanishing Point」は、「Bizarre Love Triangle」のアウトロから切れ目なく続いた。このあたりはライブのクライマックスの一つで、バーナード・サムナーの歌唱の脱力感の一方で、サウンドは鬼気迫るものがあった。
12曲目に比較的最近の曲「Plastic」が入り、その次は 往年の名曲「True Faith」。
14曲目は、ニューオーダーを一躍シーンの最前線に押し上げ、そしてピエール瀧が石野卓球と一緒に音楽活動を行うようになったきかっけの曲でもある「Blue Monday」。この“石野卓球が世界一イケていると感じた曲”がなければ、ピエール瀧は役者として現在の知名度を獲得することもなかったし、薬物使用で捕まることもなかった。
15曲目は映画『トレインスポッティング』のサウンドトラックにも収録されている代表曲「Temptation」で、以上の15曲で一旦終わりとなる(もちろん、ほぼすべての観客がアンコール待ちをする状態に移行)。
イアン・カーティスの登場
しかし実際には、観客がアンコールと合唱する間もなく、すぐにメンバーが再登場。
バーナード・サムナーの「Joy Divisionの曲。Beautiful Songーー美しい曲なんだ」というような紹介とともにJoy Divisionの楽曲「Atmosphere」が演奏される。
ここでいきなりスクリーンに大写しにされるイアン・カーティスの写真。先述の通り、23歳で自死したJoy Divisionのフロントマンである。やっぱりイアン・カーティスは、現在のバンドメンバーにとっても非常に大きな存在なんだなと感じる。

そして最後の17曲目は「Love Will Tear Us Apart」。Joy Divisionにとっては最後のシングルであり、バンドの最も有名な曲でもあり、またイアン・カーティスの墓石に刻まれている言葉でもある。

そしてスクリーンに「Foever Joy Division」と映し出される。彼らがライブを通して、観客に一番伝えたかったメッセージとは、これだったのだ。

こうして全17曲でパフォーマンスは終了した。
今回の来日公演を振り返って、改めて感じたのは、バーナード・サムナーら現メンバーたちがイアン・カーティスのことを本当に大切に思っているということであった。
「Joy Division Forever」とは映し出されるけれど、もちろん「New Order Foever」とは一度も表示されなかった。
ライブはJoy Divisionの楽曲でスタートし、Joy Divisionの楽曲で終わる。
ピンク・フロイドのベスト盤『Echoes』がシド・バレットの曲で始まり、シド・バレットの曲で終わるのとある種通じるような、「彼がいなければ僕たちはここにいないんだ」という感謝と、そして一方では喪失の感情が、バンドの元フロントマンに向けられていると感じた。
New Orderは下手なのか問題
総合的に見てライブは素晴らしかったが、だがこの記事でも書いたように、ニューオーダーのボーカリストであるバーナード・サムナーの歌唱力は低く、バンドの演奏能力も心許ない(しかし、その演奏こそが唯一無二の雰囲気を生み出しているのは間違いない)。
SNSではライブ後、「バーナード・サムナー 下手」というような投稿が散見された。確かに、それは間違いではないのかもしれないが、少なくともバーナード・サムナーに対してそれを言うのはお門違いだろう。
なぜなら、40年以上経った今も、このバンドのボーカルはイアン・カーティスなのだから。
(実際、バーナード・サムナーは自身のことを“ボーカリスト”とは一切自称していない)
ジョイ・ディヴィジョンからニューオーダーへ、というバンドの歴史はもちろん知っていたが、今回ライブを見たことで、改めてこのバンドの本来のボーカルはイアン・カーティスであるということを感じた。
おわりに
だがニューオーダーの演奏能力が必ずしも高くないことは、ある意味、「本当にいい曲」さえ書くことができれば、演奏能力が高くなくても誰もがスターになれるという夢を与えてくれるものだと思う。
Joy Divisionが結成されたきっかけは、1976年6月4日、バーナード・サムナーとピーター・フックがセックス・ピストルズのマンチェスター公演を観に行ったことだった。そこで2人はピストルズのパフォーマンスに衝撃を受け、自分たちもバンドを結成することを決意し、ボーカリストとしてイアン・カーティスが加入したのである。このピストルズのマンチェスター公演は、ザ・スミスのモリッシー、ザ・フォールのマーク・E・スミス、のちにニューオーダーが所属するファクトリー・レコードの社長となるトニー・ウィルソンもわずかな観客の中に含まれていたという、「史上最も影響力のあるライブ」としても知られている。
そんなライブがきっかけでできたニューオーダーのライブは、今も見る者に「自分もバンドをやってみよう」という気持ちにさせてくれるのではないかと思う。
これからもメンバーには元気でいてもらって、来日公演をまたしてほしいと願う。
ところでグッズ販売には参加できなかったが、Joy Divisionの「Unknown Pleasures」のTシャツはやっぱりほしい……。
ニューオーダーの名盤ランキングも書きたい。
▼個人的に一番好きな「ロウ・ライフ」
▼アルバムアートワークも含め歴史に残る名盤と名高い「Power Corruption & Lies」(権力の美学)
▼Joy Division時代からのベスト盤「トータル~ベスト・オブ・ジョイ・ディヴィジョン&ニュー・オーダー」
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