アメリカのロックバンドで私が一番好きなバンドは、R.E.M.というバンドである。
1980年代から90年代にかけて、世界のトップに君臨していたバンドである。日本では「世界を代表するロックバンド」というような扱いはあまり受けていないかもしれないが、スピッツの草野マサムネが影響を公言していたり、Mr.Childrenにもそのまま「REM」という曲があるように、日本の音楽シーンにも少なくない影響を与えている。
このブログではかなりイギリスのバンドについて紹介してきたが、私がアメリカのバンドで一番好きなのはR.E.M.というバンドである。これからR.E.M.を聞いてみたいという方には以下に紹介するおすすめ曲を聴いてみてほしいし、R.E.M.[…]
メンバーとしては、マイケル・スタイプ(ボーカル。独特の声質とソングライティングの才能でバンドを牽引。初期は長髪だが途中からスキンヘッドに)、マイク・ミルズ(ベース。彼のバッキングボーカルが生み出すハーモニーもR.E.M.の魅力)、ピーター・バック(ギター・リードギタリストとして無二のサウンドに貢献)、ビル・ベリー(ドラム。途中で脱退してしまう)という4人からなる。
このバンドの何がすごいのかというと、初めからメジャーのシーンにいたわけではなく、カレッジ・ラジオ(大学内のラジオ)から、その芸術性を失うことなく世界一に上り詰めたところとよく言われるが、そんな背景は置いておいて、とにかくアルバムが素晴らしい名盤ばかりなので、ぜひ多くの方に聴いてみてほしいと思う。
- 1 1. Automatic for the People (1992)
- 2 2. Document (1987)
- 3 3. Out of Time (1991)
- 4 4. Lifes Rich Pageant (1986)
- 5 5. Murmur (1983)
- 6 6. Green (1988)
- 7 7. Reveal (2001)
- 8 8. Monster (1994)
- 9 9. Reckoning (1984)
- 10 10. Fables of the Reconstruction (1985)
- 11 11. New Adventures in Hi-Fi (1996)
- 12 12. Around the Sun (2004)
- 13 13. Up (1998)
- 14 14. Accelerate (2008)
- 15 15. Collapse into Now (2011)
- 16 おわりに
1. Automatic for the People (1992)
多くの方が挙げると思うが、R.E.M.の最高傑作といえば、『Automatic for the People』だと思う。
このアルバムの最大の特徴は、アコースティック主体のバンドサウンドと、ストリングスによる繊細で幻想的なサウンドが、全体の雰囲気を特徴づけていること(オーケストレーションはレッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズが4曲担当している)。
このアルバムについては、アルバムが一つの作品として非常に素晴らしいので、特定の一曲を聴いて全体について判断はしてほしくないのだが、このアルバムの中で最もよく知られている曲は最も広く知られる「Everybody Hurts」だろうか。
海外では、特に悩みを抱える人々への励ましの曲としても知られている。全体的にこのアルバムはダークで内省的な死を思わせる雰囲気があり、一方でメロディは美しく歌詞も深いという、芸術的な作品に仕上がっているが、「Everybody Hurts」はアルバムの雰囲気を表す象徴的な曲である。
『Automatic for the People』はニルヴァーナのカート・コバーンが自殺した時に流していたレコードとしても知られている(カート・コバーンはR.E.M.に心酔していた)。
ただ、R.E.M.のアルバムがすべてこのような雰囲気なわけではない。
発売当時のライナーノーツには「確かにこのアルバムのイメージは暗く重い。しかし、不思議なのは繰り返し聴くのが苦にならないのである」と、『Automatic for the People』の素晴らしさを称賛しつつも一種困惑したような記述が見られるが、R.E.M.は力強く瑞々しい楽曲が魅力のロックバンドでもあり、この作品のような陰鬱な美しさを持つアルバムばかりを出しているわけではないのだ。
2. Document (1987)
そんなロックバンドとしてのR.E.M.の魅力がよく伝わるアルバムとして、5作目の『Document』をおすすめしたい。もっとも、このアルバムはすでに5作目なので、若々しさ・瑞々しさも残しながら一種の円熟味も感じるアルバムでもある。R.E.M.の古くからのファンの方は、もっと初期のアルバムの方が好きという方も多いかもしれないが、やはりバンドの全盛期に突入するのはこのアルバムではないかなと思う。
この作品ではプロデューサーにスコット・リットという人物が務めているのだが、スコット・リットはこの後、R.E.M.の10枚目のアルバムである『New Adventures In Hi-Fi』まで実に6枚のアルバムをバンドと作り上げることになる。この「スコット・リット時代」はまさにバンドの最盛期といえよう。
名曲揃いだが中でも際立つのが、バンド初の全米トップ10入りを果たした「The One I Love」。別記事でもこの曲について紹介したが、ラブソングに見えてシンプルなラブソングではないという、R.E.M.らしい作品(一方、マイケル・スタイプはリスナーを騙しているような後ろめたい気もしていたとか)。
このアルバムは、デビュー当初はカレッジ・ラジオを主な活躍の場としていたR.E.M.がインディー・ロックから脱皮し、アメリカで最も重要なロックバンドに上り詰めていく足掛かりになったアルバムである。
3. Out of Time (1991)
『Out of Time』は、R.E.M.のアルバムの中で、一番さまざまなサウンドが楽しめるアルバムである。このアルバムに収録されている曲が、R.E.M.の楽曲の中で最もよく聞かれているかもしれない。
歴史に残る名曲「Losing My Religion」を収録しているアルバムという点でも、バンドの最高傑作のひとつといえると思う。カントリーやポップの要素もあり、R.E.M.の曲の中では場違いなほどポップなヒット曲でよく街中でも流れている「Shiny Happy People」や、一見すると地味だが泣かせる名曲「Country Feedback」など芸術的なナンバーも光る。
悪く言うと統一感がないということにもなるだろうが、このアルバムの統一感の乏しさと、実験的な曲たちが、次作『Automatic for the People』につながったのかなと思う。
4. Lifes Rich Pageant (1986)
次に紹介したいのが、バンドの4作目である『Lifes Rich Pageant』。どんどんバンドの存在感が大きくなっていったころの作品で、この時期のアルバムはどんどん進化している。
中でもこのアルバムの中で印象的なのは、サビで合唱したくなるR.E.M.らしい名曲「Fall on Me」から、これもまた熱唱したくなる「Cuyahoga」の流れ。この名曲のつながりは素晴らしい。
このアルバムのプロデューサーであるドン・ゲイマンによれば、
マイケルの声はあまりにも個性的な響きを持っていたから、この独特な豊かさはちゃんと聴かれて評価されるべきだと思ったんだよね
(バンド解散時のインタビュー)
ということで、これ以前のアルバムは結構歌詞が聞き取りにくいのだが、このアルバムからはマイケル・スタイプのボーカルの素晴らしさが際立つ。
5. Murmur (1983)
デビュー作ながら、オルタナティブ・ロックの基盤を築いたと称される伝説的アルバム。
デビューシングルの「Radio Free Europe」「Talk About the Passion」などが象徴的。荒々しさと勢いはもちろんなのだが、曲自体の強さというか、メロディアスでありながら歌詞やサウンドに力強さがあるという、R.E.M.の曲が持つ魅力はこのデビューアルバム『Murmur』ですでに完璧なまでに備えている。
アメリカでもイギリスでも、音楽雑誌が行う「史上最高のロックのアルバムランキング」というような企画で、たいてい100位以内にランクインするアルバムである。
6. Green (1988)
前作『Document』で大きな飛躍を果たしたR.E.M.は、これまで契約していたレコード会社との契約を満了し、争奪戦の末に大手のワーナーと契約。そのファーストアルバムが、この『Green』だった。
収録曲の「Orange Crush」「Stand」「Pop Song 89」などはポップなサウンドで、一見すると商業的なサウンドになったかのようにも思えるのだが、「Orange Crush」はベトナム戦争で使用された枯葉剤を題材にしていたり、メジャーに移籍してからも批評性を失うことはなかった。
このアルバムの大ヒットで、R.E.M.は世界で最も重要なロックバンドへと上り詰めていく。
ライブ映えするような聞きやすい曲が多く、最初に聴くアルバムとしてもおすすめしたい。
7. Reveal (2001)
バンドが落ち着いてきた時期のアルバムで、全体的にメローなサウンドが特徴で、海外ではかなり酷評されることも多い(海外のランキングではこのアルバムが最下位になっているものも見たことがある)。だが、かなりの名盤だと思う。個人的にこの『Reveal』は日本人好みのアルバムなのかもしれないと思う。
R.E.M.は村上春樹が一番気に入っていた同時代のロックバンドであったことも知られているが、このアルバムの代表曲である「Imitation of Life」は、村上春樹が『村上ソングス』という本で翻訳もしている。
奈良美智がシングルのアートワークを描いている「I’ll Take the Rain」なども収録されており、どこか日本との縁を感じるアルバムである。
8. Monster (1994)
次に紹介する『Monster』は、『Automatic for the People』の次の作品。
最高傑作を出した後のR.E.M.はポストロック寄りのサウンドに向かうのではなく、グランジの影響を受けたノイジーなロックアルバムを発表した。
1曲目の代表曲「What’s the Frequency, Kenneth?」や、R.E.M.の信奉者で、『Automatic for People』のレコードをかけながら1994年に自殺したニルヴァーナのカート・コバーンへの追悼曲「Let Me In」などが収録されている。
発表当時のことは知らないが、『Automatic for the People』から一転グランジ寄りのサウンドになったので、結構当時のファンはびっくりしたのかなと思う。
9. Reckoning (1984)
R.E.M.の2作目。『Reckoning』の邦訳は『夢の肖像』。
『Murmur』の流れを汲みながら、サウンドがややキャッチーになっている。彼らの初期の他のアルバムに比べると少し印象が弱い気がするのは否めないと思うが、「So. Central Rain」などの名曲を収録している。
この頃のMVでは長髪だった時代のマイケル・スタイプを見ることができる。
10. Fables of the Reconstruction (1985)
R.E.M.の3作目。慣れないイギリスでレコーディングした作品で、プロデューサーとしては不本意な出来だったと悔やんでいるらしい。
実際、前後の作品に比べると少し地味な印象を受けるような気もするが、それでも十分すぎるほど素晴らしいアルバムである。このアルバムに収録された代表曲である「Driver 8」はバンドで一番好きな作品に上げるファンも多い名曲。
D
Driver8は蒸気機関車の運転手を歌った曲で、
休憩しろよ、目的地には着けるから
でも僕たちはまだ道半ばにいろよ
というような、労働者を励ますような歌である。
11. New Adventures in Hi-Fi (1996)
このアルバムを最後に、ドラムのビル・ベリーが健康上の理由で友好的にバンドを脱退しており、ひとつの集大成的なアルバム。プロデューサーのスコット・リットと組むのも、このアルバムが最後になった。一種のラストアルバムの風格をたたえているアルバムで、少し落ち着きがありすぎるようにも思えるが、そういう気分の時に聞きたい名盤。
代表曲としては「Electrolite」や「Leave」、パティ・スミスと共演した「E-Bow the Letter」などがあり、重厚なサウンドが特徴。
レディオヘッドのトム・ヨークはR.E.M.およびマイケル・スタイプの歌詞に大きな影響を受けているが、この「Electrolite」は、トム・ヨークのお気に入りの曲の一つである。
マイク・ミルズがピアノの前に座り「Electrolite」のメロディーを私に弾いてくれました。私は「これはとてもシンプルだけど、とても美しい」と言いました。数ヶ月後、彼らがこのメロディーで何をしたのかを聞いた、それは彼らのキャリアの中で最高の曲でした。
12. Around the Sun (2004)
一般的にはR.E.M.のアルバムの中で、最も酷評されることが多いアルバム。1曲目の「Leaving New York」くらいしかヒット曲がなく、スローテンポで退屈なアルバムだと評価される。
だが、本当にこのアルバムには駄作しか収録されていないのだろうか?
そうというのも私はR.E.M.が(デビュー30年経ってから)初めて出したライブ盤である『R.E.M. LIVE』というアルバムが好きなのだが、このライブアルバムは、『Around the Sun』のツアーの音源をライブアルバム化したものである。
たとえばこのライブ盤の3曲目「Boy in the Well」などを聴いていると、ライブ盤に収録された他の曲とも遜色ないと思えるのだがーー
しかし、『Around the Sun』の「Boy in the Well」を聴くと、テンポが遅く大仰なアレンジで、名曲という印象は受けないのは事実である(歌詞はいいのだが)。つまり、このアルバムは曲の力はあるのに、あまりそれを生かせていないのかと思う。だが、何度か聴いていると名盤に思えてくるアルバムである。
ちなみにライブアルバムなので番外編扱いにしたが、個人的には『R.E.M. LIVE』はR.E.M.のアルバムの中でもかなり好きだし、このランキングで入れるとしても4番目におすすめしたいアルバムである。R.E.M.のライブ音源はどれも素晴らしく、確かに彼らは当時世界一のバンドだったのだとわかる。このライブ盤は2CD+DVD付き。
13. Up (1998)
ドラマーのビル・ベリーが脱退してから最初のアルバム。エレクトロニカの要素などが取り入れられているのがポイントだが、全体的にサウンドについては試行錯誤している感はある。
アルバムとしてちょっと統一感に欠ける印象を受けるが、光る名曲も多く、R.E.M.の曲の中でも最も美しい曲の一つだと思う「At My Most Beautiful」や、「Daysleeper」などが収録されている。名盤であるのは間違いない。
14. Accelerate (2008)
『Reveal』や『Around the Sun』といったスローテンポなアルバムが続いた中で、ロックに回帰した作品。シンプルな曲が並び、代表曲の「Supernatural Superserious」を聞いていただければ雰囲気がわかると思う。
マイケル・スタイプはこのアルバムの発表当初「この20年間で最も速く出来上がったアルバム」と語っていたようで、このアルバムの疾走感は、彼らのキャリア中期以降には見られなかったもので、発表当初ファンから好意的に受け入れられた理由はわかる気がする。R.E.M.のメンバーたちも、彼らのラスト2作について気に入っているらしい。
だが、R.E.M.の他のアルバムに比べると、何度も聞きたくなるアルバムかというと点でどうしても劣ってしまうかなと思う。
15. Collapse into Now (2011)
R.E.M.のラストアルバム。「Überlin」や「It Happened Today」など、原点回帰的な曲も多いが、どこか物哀しい雰囲気をたたえていて、キャリアの集大成的な雰囲気がある。
このアルバムは、初めてメンバーがジャケットに登場している。
“That’s the record where we put ourselves on the cover for the first time and I’m waving goodbye, and nobody got it,”
このレコードで初めて僕たち自身をジャケットに載せて、僕は手を振ってサヨナラを言ったんだ。誰もわかってくれなかったけれど。(マイケル・スタイプ)
このアルバムが発表されたときにはR.E.M.が活動を追えるとはだれも知らなかったが、この年R.E.M.は活動休止する。このアルバムは「これで終わりなんだな」ということを感じてしまうので、おすすめランキング的には下の順位になってしまった。
おわりに
なお、これらのアルバムを発表順に並べると、以下のとおりである。
1. Murmur(1983)
2. Reckoning(1984)
3. Fables of the Reconstruction(1985)
4. Lifes Rich Pageant(1986)
5. Document(1987)
6. Green(1988)
7. Out of Time(1991)
8. Automatic for the People(1992)
9. Monster(1994)
10. New Adventures in Hi-Fi(1996)
11. Up(1998)
12. Reveal(2001)
13. Around the Sun(2004)
14. Accelerate(2008)
15. Collapse into Now(2011)
ちなみに今更になるが、R.E.M.には『In Time: The Best of R.E.M. 1988–2003』というベストアルバムがある。
このアルバムはただヒット曲を集めたというだけのアルバムではなく、
また、先述した通り、ライブアルバムもバンドの熱気を感じられるのでぜひおすすめしたい。
このブログではかなりイギリスのバンドについて紹介してきたが、私がアメリカのバンドで一番好きなのはR.E.M.というバンドである。これからR.E.M.を聞いてみたいという方には以下に紹介するおすすめ曲を聴いてみてほしいし、R.E.M.[…]
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