《文庫化の噂が…》ガルシア・マルケス『百年の孤独』で海外文学の陶酔に浸る【概要・感想】

百年の孤独

ガブリエル・ガルシア・マルケス「百年の孤独」という作品がある。同名の酒の元ネタである(多分)。

この作品は、「20世紀の傑作」ランキングなどでたいてい上位にランクインする作品(特にこのランキングでは第一位にランキングしている)であり、その価値は広く認められている。私自身もこの作品は非常に好きである。

しかし、一体「どこが素晴らしいのか?」「どこが好きなのか?」といわれると、答えに窮する部分も多い。そこが、全く文化の異なる海外文学を読むことの難しさであり、面白さでもあると思う。

今回は、この「百年の孤独」を読んで感じた魅力を、私個人なりに伝えたい。

ちなみに『百年の孤独』は長い間文庫化されてこなかったが、2024年に文庫化されるという噂がある。果たして本当に文庫化されるのだろうか……?

 

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

ガブリエル・ガルシア・マルケス略評

はじめに著者のガブリエル・ガルシア・マルケスについて紹介したい。

ガルシア・マルケスは、1982年にノーベル文学賞を受賞したことで知られている。ラテンアメリカ文学のブームの旗手となった作家である。

コロンビア出身では初のノーベル文学賞作家、ラテンアメリカでは4人目となった。

その受賞理由は、以下の通りである。

現実的なものと幻想的なものとを融合させて、一つの大陸の生と葛藤の実相を反映する豊かな想像力の世界を構築した

(for his novels and short stories, in which the fantastic and the realistic are combined in a richly composed world of imagination, reflecting a continent’s life and conflicts)

この一文はまさにガルシア・マルケスの作品全体の特徴をとらえているのであるが、特に代表作である百年の孤独をよく表現しているといえよう。

ガルシア・マルケスの代表作である『百年の孤独』が、どのような魅力を持った作品なのかは、以下で説明しよう。

『百年の孤独』あらすじー神話的に紡がれる物語

普通、本の紹介をする際には、あらすじから刷明するのが王道だろう。だが、この『百年の孤独』は、あらすじこそが魅力というわけでもない。

この物語は、南米にある「マコンド」という街が建設され、衰亡するまでの百年間のストーリーである。

主人公格は、この街を建設した「ブエンディア家」であるのだが、男は代替わりが非常に激しいので、一貫した主人公がいるというわけではない。

まさに、神話のように紡がれている物語なのである。物語の大半は、伏線となっているわけでもなく、淡々と起こったことが描かれる。

だが、最後に破滅の時は来るのである。

神話的にあらすじをごく簡潔に言えば、「近親相姦の禁忌を犯したが為に街は滅ぶ」というのがストーリーである。

あらすじはないようなものだと言いはしたが、この本は、読み終わった後に後悔するような作品では決してない。ここでは完全なネタバレになるので伏せるが、結末に圧倒されることは保証しておこう。

しかし、ある程度読書に対して「やる気」がないと読めない本であるということは断っておきたい。

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『百年の孤独』登場人物

『百年の孤独』の登場人物は非常に多く厄介だが、本に「家系図」が載っているので、それを参照すればよい。わかりにくいが、しっかり覚えなくてもあまり読解に影響はない、と思う。

注意した方がいいのは、だいたい次の内容くらいだろうか。

  • 男の名前は「アルカディオ」「アウレリャノ」のほぼ二通りだが、同じ名前を持っている一族は、似たような性格を共通して持っている。
  • 最低限覚えておくべきなのは「ウルスラ」「メルキアデス」「デ・ラ・ピエダ」。特にウルスラは「第一世代」にもかかわらず、物語終盤まで生き続ける事実上の最重要人物。

『百年の孤独』の特徴と魅力

この作品の魅力は、あらすじというよりはその舞台と、特徴的な描写にあると思う。

「失われた楽園の神話」としての『百年の孤独』

一つ目に、作品の舞台は南米大陸である。ジャック・ジョゼは、この作品の魅力は「失われた楽園の神話」を見事に再解釈したことにあるとしているという(ラテンアメリカ文学史)。

この作品の持つ「未開の楽園の神話」という役割こそ、意義があるのである。

米国でスター・ウォーズが爆発的ヒットとなった理由の一つには、米国が「神話」を持たない共同体だったからであるという説を聞いたことがある。すなわち、スター・ウォーズが合衆国の神話となったのである。

だとしたら、『百年の孤独』は、南米の一種の神話だったのではないかと思うのである

描かれる南米の幻想世界

この作品の書き出しは、次のように始まる。

長い歳月が流れて銃殺体の前に立つはめになったとき、恐らくアウレリャノ・ブエンディア大佐は、父親のお供をして初めて氷というものを見た、あの遠い日の午後を思い出したに違いない。

ここにも南米という「失われた楽園」を見出すことができよう。

「未開の楽園」に、時がたつにつれて次第にバナナ農園や軍人、反乱などの要素が流れ込んでいく… というのは『百年の孤独』の一つのストーリーである。

この書き出しを魅力的に感じた方には、ガルシア・マルケス作品はぜひお薦めしたい。

描写の特徴「マジックリアリズム」

そして、南米という幻想的な舞台とマッチした文学技法こそが、「マジックリアリズム」(魔術的リアリズム)である。

これこそまさに、ガルシア・マルケスのノーベル文学賞受賞理由にある、「現実的なものと幻想的なものとを融合」である。

『百年の孤独』は、一種のファンタジーである。だが、ファンタジーである以上に現実でもあり、現実である以上にファンタジーなのである。

この融合こそが、描写の特徴である。

以下に有名な場面を、少し紹介しよう。

目まぐるしくはばたくシーツにつつまれながら、別れの手を振っている子町娘のレメディオスの姿が見えた。彼女はシーツに抱かれて舞い上がり、黄金虫やダリヤの花のただよう風を見捨て、午後の四時も終わろうとする風の中を抜けて、もっとも高く飛ぶことのできる鳥さえ追っていけないはるかな高みへ、永遠に姿を消した。

四年十一か月と二日、雨は降りつづいた。

この部分だけ抜き出すと、『百年の孤独』はただのファンタジーに見えてしまうかもしれない。

しかし、この作品を普通に読んでいると、ごく自然にこの描写を受け入れてしまうのである。

ここに、『百年の孤独』の描写の魅力がある。

非常にうまく、非現実と現実が融合しているのである。

このような幻想世界に浸ることができることこそ、読書の魅力の一つではないかと私は思うのである。それができる文学こそ、この『百年の孤独』なのである。

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おわりに

結局のところ、『百年の孤独』は、わかりにくい作品なのかもしれない。

だが、熱情にあふれた南米の空気を感じ、その幻想的な雰囲気に身を任せてみたいと思うならば、これ以上にすぐれた作品はないのではないか。

私はこの作品を読んで、未踏の南米大陸の熱気に思いを馳せた。

▼『百年の孤独』単行本

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いきなり『百年の孤独』を読むのはハードルが高いという場合は、短い『予告された殺人の記録』をお薦めする。

海外文学ランキング。『百年の孤独』は一位。

ガルシア・マルケス作品にも強い影響を与えた中南米文学の古典『ペドロ・パラモ』(フアン・ルルフォ著)。

▼参考文献

依藤道夫「ガブリエル・ガルシア・マルケスの研究 : 『百年の孤独』と魔術的リアリズム」(都留文科大学研究紀要、2003年)