以前、オアシス(Oasis)のアルバムランキングを書いたが、1990年代のイギリスで「ブリットポップ」と呼ばれる音楽シーンをオアシスとともに牽引したバンドが、ブラー(Blur)である。
地方の労働者階級出身のオアシスに対し、ロンドンの中産階級出身のブラーはことあるごとに対比されてきた。荒々しさのあるオアシスに対し、ブラーは洒落を利かせた感じの音楽が多い。オアシスの方が日本では人気だと思うが、ブラーも根強いファンがいるバンドである。
今回は、ブラーの全アルバムをおすすめ順に紹介し、そこからおすすめの収録曲も紹介していくことにしたい。
1.『Blur』(1997年)
ブラーのアルバムで一番おすすめなのは、バンド名が冠された5枚目のアルバムの『Blur』。
アルバム2曲目のおそらくBlurの最も有名な曲である「Song2」は、このアルバムに収録されている。ローファイなギターと、オートマティスム(自動筆記)によって書かれた歌詞によるシンプルな曲(長さもたったの2分!)。
またアルバム1曲目の「Beetlebum」は独特のギターが特徴的な、暗く儚い曲。
だが、このアルバム『Blur』は、ブラーのキャリアの中ではやや異質なアルバムである。
ブリットポップと呼ばれる「イギリス的音楽」のムーブメントをつくり、これまで牽引してきたブラーだったが、このアルバムでは趣向を変えたのである。
ボーカルのデーモン・アルバーンは、このアルバムのリリースにあたって「ブリットポップは死んだ」という言葉を残し、自らブリットポップを終わらせた。このアルバムは、これまでのブリットポップになかったアメリカのノイズロックのような要素を取り入れたアルバムである。そのため、このアルバムは従来バンドが苦戦していたアメリカでもヒットを記録した。
間違いなく彼らの代表作なのだが、このアルバムの音楽性こそブラーのサウンドだ、とは思わないでほしい。でも、彼らが幅広い音楽へと挑戦した記念碑的な作品であり、一番おすすめである。
2.『Parklife』(1994年)
2番目におすすめなのは、『Parklife』(パークライフ)。
アルバムの冒頭を飾る「Girls and Boys」は、1990年代を代表するダンサブルな曲。
初めて聴いた方は音がチープすぎると思うかもしれないが、だんだん聴いてくると癖になってくるはず。チープなリズムにひねくれたベースを乗せた曲で、1990年代の時代精神を表している。
『Parklife』は、彼らの人気に一気に火をつけたアルバムで、1990年代のイギリスのポップシーン(=ブリットポップ)を代表する歴史的なアルバムとして認知されている。
アルバム全体を通しても「Girs and Boys」のようなやや軽薄な感じのするポップなナンバーが多いが、個人的にはこのアルバムは「End of a Century」や「This Is a Low」といったバラードにブラーの真価が発揮されていると思う。ぜひアルバムを通して聴いてみてほしい。
3.『Modern Life Is Rubbish』(1993年)
3番目におすすめなのは、2ndアルバムの『Modern Life Is Rubbish』(モダンライフ・イズ・ラビッシュ)。
紹介するのは、こちらも冒頭曲の「For Tomorrow」。「シングル向きの曲」を求められたデーモン・アルバーンが一晩で作ったという逸話があるように、シンプルなサウンドと親しみやすいコーラスが特徴。しかしポップながら捻くれたところのあるメロディと漂う哀愁はどこかイギリス的で、のちのブリットポップの方向性を定めている。
『Modern Life Is Rubbish』は、日本語に訳せば『現代生活はゴミ』。同名の映画も作られているようだが、もちろんこのアルバムに由来する。
このアルバムのタイトルに象徴されるような皮肉的な精神性とウィットに富んだ歌詞は、その後のブラーの作品の特徴であり続けた。次作の『Parklife』に比べると華やかさと完成度には欠けるが、そのぶんブラー独特のシニカルさや若さといったものがここに現れていると思う。
4.『The Great Escape』(1995年)
4番目におすすめのは、4作目のアルバム『The Great Escape』(ザ・グレート・エスケープ)。
前作『Parklife』で迎えたバンドの絶頂期に発表されたアルバムで、かなりの良曲がそろっている。
「The Universal」はストリングスが特徴的なバラード。歌詞は少し意味をとるのが難しいが、「ユニバーサル」というものに人々が飼いならされている近未来を歌った曲。
また「Charmless Man」は、そのタイトルの通り現代社会にはびこっているような「チャームレス・マン(魅力のない男)」を揶揄した歌。こちらもブラー特有のひねくれたポップで、個人的にはブラー屈指の名曲だと思っている。
ただ、上に紹介した二曲などは間違いなくブラーのキャリアでもトップクラスの良曲なのだが、アルバム全体としてはややまとまりに欠ける印象がある。
ブラーのアルバムを区分すると、2~4作目の『Moderlife is Rubbish』『Parklife』『The Great Escape』が、イギリスの伝統的なポップ音楽を志向した「ブリットポップ期」になるわけであるが、このアルバムは『The Great Escape』というタイトル(大脱走)が示すように、バンドが囚われていたものから脱却しようとしていた時期にあたる。
このアルバムはかなりポップに寄っているのだが、一方でポップから脱却しようとしている不安定さがあり、そこが魅力でもあるのだが上記の3作よりは評価を下げた。
5.『13』(1999年)
5番目におすすめなのは、6枚目のアルバムである『13』(サーティーン)。
代表的な収録曲の「Coffee And TV」は、普段はギターのグレアム・コクソンがボーカルを取っている(ボーカルのデーモン・アルバーンはコーラス)ことからもわかるように、前作『Blur』同様ブリットポップ期より音楽性に幅が出てきている。
「Coffe And TV」は個人的にはブラーで一番好きな曲の一つで、牛乳パックが探検するMVがかわいい。
この曲のほかにも、冒頭曲の「Tender」はゴスペル調であったり、アルバム全体として音楽性が幅広くなっている。
このころは傾向通りに内省的な曲が多くなっており、このアルバムをブラーで一番好きなアルバムに推している人も多い。
6.『The Magic Whip』(2015年)
6番目におすすめなのは、『The Magic Whip』(ザ・マジック・ウィップ)。バンドの再結成後、はじめた発表されたアルバム。
このアルバムからの先行シングルとなった「Go Out」を紹介する。
あやしげな中国語(広東語)と映像が流れるが、ミュージックビデオなので安心してほしい。このセンスは日本人にはまるで理解できないのだが……。
このアルバムは香港でレコーディングされたため、アルバムジャケットも含めて香港の街がインスピレーションのもとになっているらしい。
7.『Think Tank』(2003年)
7番目におすすめなのは、活動休止前の最後のアルバムである『Think Tank』(シンク・タンク)。
このアルバムの代表曲「Out of TIme」は、ギターのグレアム・コクソンが脱退した後に発表されたシングル。いい曲なのだが、バンドの終焉を感じさせる暗い曲である(イラク戦争という時代背景もあるのだが)。
だが、このアルバムはこの曲以外は少しぱっとしない。このアルバムの一番の見どころはアルバムジャケットである。
お気づきの方もいるかもしれないが、このアルバムジャケットはバンクシーによるものである。現在に至るまで、アルバムアートワークにバンクシーが使われたアルバムは他にない。アルバムジャケットが秀逸という意味では、物理的に所有したいランキングでは上位に食い込める。
8.『Leisure』(1991年)
8番目におすすめなのは、デビュー作の『Leisure』。
レディオヘッドにしてもそうだが、デビュー作はデビュー作なりの良さがあるにしても、他のアルバムと比べるとあまり良いアルバムとは思えない場合が多い。
このアルバムの時点ではシューゲイザーの影響を受けたサウンドで、のちのブラーのアルバムとは結構違う。
収録曲の「There’s NO Other Way」などは良い曲だと思う。
ただ、アルバムとしての評価は、やはりほかのアルバムより一段劣る。
おわりに
というわけで、個人的なブラーのおすすめアルバムの順番は以下の通りである
ーーという前に、どのアルバムにも収録されていないブラーのシングル曲を一つ紹介したい。
それが「Under The Westway」であり、2012年のロンドンオリンピックの閉会記念コンサート「Best of British」の最後を締めくくった曲である。もの悲しさのあるバラードで、何かのラストを飾るにふさわしい名曲である。
それでは改めて、アルバムのおすすめランキングを示すと以下のとおりである。
- 1.『Blur』(1997年)
- 2.『Parklife』(1994年)
- 3.『Modern Life Is Rubbish』(1993年)
- 4.『The Great Escape』(1995年)
- 5.『13』(1999年)
- 6.『The Magic Whip』(2015年)
- 7.『Think Tank』(2003年)
- 8.『Leisure』(1991年)
▼関連記事