新書を買いそろえるのが趣味なのだが、最近は忙しくあまり読めていない。
その中で、非常に読みやすく、かつ面白かったのが、ちくま新書から出た大塚英志監修/山本忠宏編『まんが訳 酒呑童子絵巻』である。
その名の通り、『酒吞童子絵巻(酒天童子絵巻)』をマンガにした本である。このブログで初めてレビューするちくま新書がこれなのは邪道な気がするが、とても面白かったのでぜひ紹介させていただきたい。
絵巻物の「まんが訳」という試み
まずこの本は、コンセプトがとても面白いと思う。
内容自体もとても面白いのだが、「絵巻物」を「マンガ」にして広めようという独創的な考えに非常に感心した。
国際日本文化研究センターが所蔵している実際の絵巻物からとってきた画像をコマ割りして、マンガに仕立てているのである。
ちなみに本書に収録されているのは
『酒吞童子絵巻』
『道成寺縁起』
『土蜘蛛草紙』
の3つの絵巻物の「まんが訳」である。
いったいどうやってこの本のアイデアが生まれたのか気になる所だが、私としてはこれからも続けていってほしい企画である。
ちなみにこの本は、人間文化研究機構機関拠点型基幹研究プロジェクト「大衆文化の通時的・国際的研究による新しい日本像の創出」の研究成果を反映しているらしいので、この本の誕生にはこれが関係あるのかもしれない。
(この本と関連があるページは見つからなかったが、けっこうこのサイト面白かった)
まんがとしての面白さ
次に内容としての面白さも紹介していきたい。
絵の面白さ
マンガにすることで引き立つのは、元々の絵が持っている面白さである。
女性が「引き目・鉤鼻」で描かれるようないわゆる伝統的な絵であるが、目線や表情の描き方は今でも参考になるのではないかと思うところが多い。
このブログでは転載できないので、ぜひ実物を読んでみていただきたいと思う。
ストーリーの面白さ
ストーリーはお馴染みの説話ものなので過度に期待しない方がいいが、表題作品の『酒吞童子絵巻』は、適度にグロテスクなところもあり、青年向け漫画みたいな雰囲気を持っている。
以前『聊斎志異』という中国の古典作品を紹介した際に、手塚治虫がまんがに翻案していることを紹介したが、それに少し近いだろうか。
まんが訳を通して、ストーリーの面白さが現代に通じることが再認識されるようになっている。
物語もつくらす絵も描かないまんが制作
そしてこの本で面白いと思ったのは、山本忠宏氏による本書の製作過程の紹介である。
どういう風に「まんが訳」するかには、コマ割りなどでマンガ理論が応用されていることが紹介されている。
重ねて書くが、この本は本当にマンガとしても面白いのである。
その面白さは、理論によって裏付けられていたのである。
その意味では、マンガ論のごく基礎の基礎も学べることができるといえるかもしれない。
個人的には、この本を読んでマンガ理論についての関心も湧いてきた。
おわりに
この新書は非常に面白かったので、ぜひシリーズ化してもらいたい本である。
シリーズ化するなら、次はどんな絵巻物がいいかって?
ーーーー私の答えは、『福富草紙』です。
『福富草紙』というのは、「いつでも放屁できる特技」を持った老人が…… という物語。
絵のレベルがあまり高くないのが問題ですが、ストーリーとしてはとても荒唐無稽で面白いので、ぜひ「マンガ化」してほしい絵巻物です。
▼関連記事