今日はバレンタインデー。
バレンタインデーの曲と言えば、邦楽ではいろいろあるが、洋楽ではそれほどモチーフにされている印象はない。
もちろん海外でもバレンタインデーは、恋人たちの守護聖人である「聖バレンタイン」の殉教の日を祝うイベントであり、恋人たちにとっても特別な日であるのはもちろんである。
しかし、「女性が男性にチョコレートを贈る」という風習は、日本独自のものであるというのはよく知られた事実である。「チョコレート」が象徴的な役割を果たす日本では、やはりバレンタインデーはモチーフにしやすいのだろう。
そんな中で、ロックの巨星デヴィッド・ボウイは、2013年に「Valentine’s Day」(ヴァレンタイン・デー)というその名の通りの曲を書いている。
ラブソングだろうと日本人なら普通なら思うところであるが、洋楽で、しかもデヴィッド・ボウイが直情的なラブソングを書くと思ってはいけない。案の定、この曲はラブソングではない。
この曲の裏側をひもとくと、欧米(特にアメリカ)には、バレンタインデーの悲しい歴史があることがわかる。
実は、アメリカのバレンタインデーには血塗られた歴史があるのである。
デヴィッド・ボウイ「ヴァレンタイン・デー」の狂気
まずは、このDavid Bowie “Valentine’s Day”をMV含めて視聴してほしい。
David Bowie – Valentine’s Day (Official Music Video)
この曲、曲調自体はポップで、 コーラスも心地いい曲である。
だが、このMVからは、どことなく「狂気」を感じるだろう。このMVは、デヴィッド・ボウイのオッドアイがよくわかる(ボウイは後天的にオッドアイになった)ほどに、ボウイの表情がフィーチャーされている。
そしてその表情には、オッドアイ関係なしにある種の恐怖を抱くだろう。
さらにMVの、舞台は「廃校」であり、一瞬の「銃弾」がストーリー上のモチーフになっている。
では、このMVが表しているものは何なのだろうか?
実は、この曲のテーマは「銃乱射事件」なのである。
この曲の主人公は、
It’s Valentine’s Day
と、聖バレンタインを名乗る何かに取り憑かれたかのように、世界を自分のもとに置こうとしていくのである。銃乱射事件の犯人の精神の錯乱を描いているのがこの曲なのである。
バレンタインデーの悲しい歴史
さて、デヴィッド・ボウイが「銃乱射事件を描いた曲」のモチーフを「バレンタインデー」にしたのには、もちろん意味がある。
その理由となるのが、バレンタインデーの悲しい歴史である。
2008年2月14日には、北イリノイ大学で銃乱射事件が起きている。
この事件では、精神に病を抱えていた実行犯による銃の乱射により5人が犠牲になり21人が負傷したほか、実行犯も自殺した。
ボウイ自身が明言しているわけではないが、この曲はこの事件を題材にしている。
さらに、残念なことに「バレンタインデーの悲劇」はその十年後にも繰り返されることになった。
2018年2月14日には、ストーンマン・ダグラス高校で銃乱射事件が起きた。
この事件では、17人の死者と17人の負傷者が出た。さらに、生存者の中にも心に深い心的外傷を負った(=PTSD)ことによる自殺者が2人出ているという。衝撃的な事件である。
「怖い曲」としての「ヴァレンタイン・デー」
さて、このダグラス高校での事件が起きたのは、ボウイが「Valentine’s Day」をリリースした5年後に当たる。くしくも、この実行犯は精神病により「攻撃を支持するような声」が聞こえたという。まさに、Valentine’ Dayの曲の主人公のような状態である。デヴィッド・ボウイは、この事件を予言してしまったことにもなるというのは、さらにこの曲を「怖い曲」にしている。
結局のところ、この曲を紹介することで伝えたかったのは、この曲の「怖さ」が一つにはある。
しかし、日本ではなじみのない「銃乱射事件」(School Shooting)ではあるが、アメリカではバレンタインデーに合わせてこの悲劇が2回も起きているのである。
バレンタインデー商戦を楽しむのは日本人として当然だが、バレンタインデーは悲劇の歴史でもあるということを覚えておきたい。
収録アルバム紹介
▼収録アルバム「The Next Day」(2013年)。しばらく半引退状態にあったデヴィッド・ボウイが、突如として世に送り出したアルバム。「史上最高のカムバックアルバム」とも評されている。実際に2013年の作品なだけあって、ところどころにレトロな感じはあるものの、サウンドは現代のもので非常に聴きやすい。デヴィッド・ボウイを初めて聴く人に対しても、個人的にはいちばんお勧めのアルバムである。
▼関連記事