2025年11月11日、イギリスのロックバンドであるフランツ・フェルディナンド(Franz Ferdinand)が東京ガーデンシアターで公演を行った。その前々日には大阪でライブをやっていたのだが、今回東京公演を観に行った。
フランツ・フェルディナンドといえば、「女の子たちが踊れるロックを作る」という理想のもとで結成され、2000年代のロックシーンに唯一無二のダンサブルなギターロックをもたらしたバンドである。
今回の来日は2025年1月にリリースされた最新アルバム『The Human Fear』を引っさげてのツアーであるが、このアルバムはいわゆる「原点回帰」のアルバムである。前作『Always Ascending』(2018年)がシンセサイザーを多用したディスコロック寄りのサウンドで、それはそれでいいのだが、「踊れるロック」という持ち前の良さは薄れていた印象だった。それに対して本作は、バンドの原点に立ち返っている。また、フロントマンのアレックス・カプラノスはすでに50歳を超えているが年齢を感じさせない若々しさで、フランツというバンドが今もなお、音楽でもライブでも観客を熱狂させる力を持ったバンドであることを再認識した。
今回は、来日公演のセットリストについて紹介し、感想を記したい。

Franz Ferdinand 2025東京公演セットリスト
今回の東京公演のセットリストは以下の通りだった。
1. The Dark of the Matinée
2. The Doctor
3. No You Girls
4. Night or Day
5. Do You Want To
6. Audacious
7. 40′
8. Build It Up
9. Fallen
10. Bar Lonely
11. Black Eyelashes
12. Michael
13. Love Illumination
14. Take Me Out
15. OutsidersEncore
16. Jacqueline
17. Walk Away
18. Ulysses
19. Hooked
20. Evil and a Heathen
21. This Fire
なお、ライブ終了後に配布されたセットリスト表では「Walk Away」が本編3曲目に記載されていたのだが、実際にはアンコールの2曲目(全体の17曲目)に演奏された。もしかしたら演奏をし忘れていたのかもしれないが、いずれにせよこの名曲を聴けたことは本当に嬉しかった。
このセットリストで特徴的なのは、後述するが、なんといってもアンコールが6曲もあったことだろう。
通常のロックバンドのライブもそうであるし、過去のフランツもセットリストを見てもアンコールは2〜3曲程度が一般的なようだが、今回の東京公演はは本編15曲に対してアンコール6曲という、かなり珍しい構成だった。正直なところ「Outsiders」が流れた時には、もう終わってしまうのか、という感じで、ライブ全体の長さとしてやや物足りなさを感じていた。だが、すぐにアンコールが始まり、そこからメインセットの半分近くにあたる6曲が続いたことで、大満足どころか逆にものすごく得したように思える公演となった。
Franz Ferdinand 2025東京公演ライブレビュー
ここからは、今回の来日公演の感想について書いていきたい。
アレックスの若々しさ
ライブの幕開けを飾ったのは、ファーストアルバム収録の「The Dark of the Matinée」。この曲は彼らの代表曲の一つで、サビのところで結構歌っている人も多かったと思うし、飛び跳ねている人も多かったかなと思う。アレックス自身も冒頭から激しく飛び跳ねていて、52歳とは思えないほどエネルギッシュだった。ジャンプして開脚するのがアレックスおなじみのポーズ(?)だが、この日も冒頭の「The Dark of the Matinée」から何度もそのパフォーマンスを見せつけてくれた。

2曲目は最新アルバムから「The Doctor」。この曲も非常に盛り上がり、新譜の楽曲が過去の名曲と肩を並べる盛り上がりを持っていることを早々に実感させられた。3曲目の「No You Girls」はサードアルバム『Tonight』(2009年)収録の楽曲。観客に歌わせる部分(「I’d love to get to know you」)が、日本人が相手だとあまりうまくいってなかったような気はするが(笑)、会場全体が一体となって盛り上がった。
4曲目は再び最新アルバムから「Night or Day」。この曲が終わった後に、アレックスが「今やった曲は新曲だけど、次はおなじみの曲をやるよ」みたいなMCを入れて(完全にうろおぼえな意訳)、始まったのが5曲目の「Do You Want To」である。
トーキョーパーティー
「Do You Want To」はセカンドアルバム『You Could Have It So Much Better』(2005年)収録の代表曲で、日本でもCMなどで使用されていたことがある。バカっぽいといえるほど底抜けに明るいこの曲で、一気に盛り上がった。
また、アレックスはライブを通してずっと「トーキョー!!」と叫んでくれていたが(たぶん、「アリガトウ」と行った回数よりも圧倒的に「トーキョー」と叫んだ回数の方が多かったと思う)。この曲では印象的な歌詞の変更があった。
この曲の原曲には、「Transmission party」という言葉が登場する。
Here we are at the Transmission party
I love your friends – they’re all so arty, oh yeah僕たちはトランスミッションでのパーティーの真っ最中
君の友人たちのことが好きだよ、彼らはみんな芸術的だからね
ちなみにTransmissionとは、フランツの地元・グラスゴーにあるアートギャラリーのことらしい。
しかし、この日はこの歌詞を「Tokyo Party」と変更して歌ってくれていた。アレックスは今回のライブでも、歌詞を東京仕様に変更してくれた箇所がかなりあったのではないかと思うが、この「トーキョーパーティー」はわかりやすかったので、アレックスが「トーキョーパーティー」と歌った後には歓声と拍手が起きていた。
(他にはアンコール一曲目の「Jacqueline」で「But for chips and for freedom, I could die」(チップスと自由のためなら、死んでもいい)を「But for ギョーザ and for freedom, I could die」と変えて歌っていたのには、アレックスが結構ためて歌っていたので気がついた。大阪公演が終わった後に餃子を食べたのか、それとも元々が餃子好きなのだろうか)
その後も、最新アルバムの一曲目で凝った構成と印象的なメロディの「Audacious」、ファーストアルバムから「40′」、再び最新アルバムから「Build It Up」と、新旧の楽曲をだいたい交互に織り交ぜながらライブは進行していった。
9曲目「Fallen」、10曲目「Bar Lonely」、11曲目「Black Eyelashes」と最新アルバムからの楽曲が続いた後、12曲目にファーストアルバムから「Michael」が演奏された。観客があまり歌えない新曲では手拍子を求めたり、フロントマンとしてどの曲でも盛り上げようというアレックスの意思を感じた。
クライマックス、メインセット終了
13曲目には、4thアルバム『Right Thoughts, Right Words, Right Action』(2013年)から「Love Illumination」が披露された。4thアルバムと5thアルバム(『Always Ascending』)からは結局この曲一曲しか演奏されなかったが、この曲は非常に盛り上がった。
「Love Illumination」収録の4thアルバムは、オリジナルメンバーのギタリストであるニック・マッカーシーが参加した最後のオリジナルアルバムである。アレックスとのツインギターが印象的で、今はディーノ・バルドーという新しいギタリストが入っているのだが、彼とアレックスが背中合わせでギターを鳴らしたり、パフォーマンス的にもかなり盛り上がった曲だったと思う。
そして、14曲目。この曲に入る前に、アレックスが観客を盛り上げようとMCをして満を持して始まったのが「Take Me Out」である。
「Take Me Out」は、フランツ・フェルディナンドというバンドを象徴する楽曲で、やっぱりこの曲は今日一番の盛り上がりだったかなと思う。観客は歌い、飛び跳ね、フロアがトランポリンのような状態になっていた。
そして次は15曲目「Outsiders」。この曲のイントロでもすごく盛り上がったが、一方でライブの最後を飾る曲としても定番なだけに、あれ、もう終わりなのか? という、寂しさというか、物足りなさも感じていた。
しかし、「Outsiders」は、生で聴くことでスタジオ音源以上の魅力を感じる曲だったと思う。この曲は「Take Me Out」のようにみんなで合唱できる曲ではないのだが、リズムでライブの最後を飾るにふさわしい盛り上がりを作り出していた。また、この曲の最後ではバンドメンバー全員がドラムセットを叩くという演出がされるということが有名なのだが、それを生で見られたのがよかった。

こうして本編は終了した。ここまでで大体1時間ちょっとで、アンコールで3曲ぐらいやるとしても、少し短いかなと思っていた。だが、この後に待っていたのは、予想を超える充実のアンコールだったのである。
6曲のアンコール
アンコールはすぐに始まり、1曲目は「Jacqueline」。ファーストアルバムの一番最初の曲で、アンコールの1曲目としても定番の曲。
ほぼアカペラのボーカルから始まり、一曲盛り上がるという構成で、再び熱狂に突入する。先述のアレックスが「But for ギョーザ and for freedom, I could die」と歌ったのもこの曲である。
さらにアンコール2曲目には、セカンドアルバムから「Walk Away」が披露された。先述の通り、この曲は配布されたセットリスト表では本編3曲目に記載されていたが、実際にはここで演奏された。
これで次は「This Fire」で終わりかな……そういえばユリシーズは演奏していないな……と思っていたら、アンコール3曲目にまさにその「Ulysses」。3rdアルバム『Tonight』の1曲目を飾る名曲である。
この曲が終わって、今度こそ終わりなのかなと思ってたが、そんなことなく、4曲目に最新アルバムから「Hooked」が演奏された。『The Human Fear』というアルバムタイトルの「Human Fear」という歌詞が登場するのは、実はこの曲である。つまり、ある種のタイトル曲的な位置づけの楽曲で、疾走感のあるこの曲によって会場は大いに盛り上がった。
さすがにこの次で終わりかな……と思っていたら、5曲目「Evil and a Heathen」が演奏された。これもセカンドアルバム収録の楽曲でである。おそらく、この曲と9曲目の「Fallen」は、セットリストの紙を見る限り大阪公演では演奏していなかった曲だと思われる。一方、大阪では『Right Thoughts, Right Words, Right Action』から「Stand on the Horizon」という曲をやっていたようだが、これは東京でやらなかった。大阪のライブも充実のライブだったと思うが、総合的には東京公演の方が曲数は1個多かったようで、ちょっとお得感があった。
そして最後、「This Fire」。ライブでは最後の曲として定番だが、ファーストアルバムの中では「Take Me Out」などの代表曲の陰に隠れている感はある曲だが、シングルカット版ではテンポが上げられており、そのシングル盤の方が結構人気は高いのかなと思う。
静かに始まり、徐々に最高潮へと盛り上がっていく構成、日本人でも歌いやすい歌詞で非常に盛り上がる曲である。フロントマンのアレックスも、観客をしゃがませたりして、観客を動かして盛り上げていて、ものすごく良かった。この「This Fire」、合計7分くらい演奏したのかなと思うが、ライブ用の長尺バージョンで、本当に最後まで楽しく終わるというライブだった。

おわりに
改めてになるが、フランツ・フェルディナンドの2025年東京公演は、「踊れるロック」を追求し続けるバンドの真髄を体験できる、素晴らしいライブだった。
会場の雰囲気も素晴らしかった。観客層は、20年前のデビュー当時から聴いているであろう少し年齢を重ねた方々もいたし、基本的にはやや若い人、30歳くらいの人が多かったかなと思う。私自身もファーストアルバムのリリース時にはまだ幼く、リアルタイムでは体験していない世代なのだが、同世代が多かったと感じた。世代を超えて楽しめるライブというのは貴重だと感じた。
最後になるが、音響面についても触れておきたい。轟音というほどではなかったが、上品な感じで、それで良かったのかなと思う。フランツの音楽は、ただ大音量で圧倒するのではなく、グルーヴとメロディで踊らせるバンドで、その特性を活かした音作りがなされていたように思う。
次に彼らが日本に来るときを楽しみに待ちたい、とても充実したライブだった。
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