不眠の子守唄

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二月革命から十月革命 ロシア革命を学ぶならこの一冊ー池田嘉郎『ロシア革命 破局の8か月』書評・感想

3月8日は「国際女性デー」である。

実はこの「国際女性デー」は、東欧の国々には交際「女性の権利向上のための記念日」以上の存在感を持っている。それは、1917年の国際女性デーにペトログラード(現サンクトペテルブルク)で起きたデモがきっかけとなり、「二月革命」としてロシア帝国・ロマノフ朝が倒されたからである。

 

しかし、「二月革命」によって、ご存知の「ソビエト連邦」が成立したのかと言われると、そうではない。ソビエト権力が確立するのは、8か月後の「十月革命」である。この経緯をわかりやすく書いているのが、池田嘉郎『ロシア革命―破局の8か月』である。

今回は、この本について軽くレビューしたいと思う。

ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)

いま、100年前のロシアを考えるということ

この本が刊行されたのは、2017年である。ロシア革命(二月革命~十月革命)が起きたのは1917年であるから、ちょうどロシア革命の100年後に刊行されたことになる。

 

一世紀前、革命前夜のロシアは次のような状態であったと本書は記す。

住民の大半を占める民衆は、教育水準が低かった。人口の八割ほどを占める農民のうちには字が読めない者も大勢いた。階層的な秩序をなすロシア社会で彼らは経済的に不利な立場にあるばかりでなく、二級臣民のような立場にあった。

そこから、「われわれ」と「あいつら」という、民衆の世界観における二分法も生まれた

(中略)

民衆にとっては、現在ある秩序はこつこと修正していくべきものというよりは、いつか、夢のような真実の瞬間に、一挙に転覆されるべきものであった。(16頁)

この一世紀前のロシアの描写を見て、私は今の日本に似ているのではないかと思う。

引用した中に、「われわれ」と「あいつら」という表現がある(おそらくロシア語の原文があるのだろう)。この「あいつら」という表現は、今の日本で一部が言う「上級国民」という言葉に近くないだろうか?

 

当時のロシアに「われわれ」「あいつら」という言葉が存在していたというのは、社会の分断の深さを表しているだろう。

このような風潮のもとでの革命が、世界史上初の共産主義政権を生み出した「ロシア革命」なのである。

 

とすると、「上級国民」という言葉が生まれている今の日本も、ある意味では当時のロシアと同じ風潮の中にあるように思える。

そのような現状を踏まえると、今、ロシア革命を学ぶことには意味があるのではないか

 

 

ロシア革命が再び起きることはあるか?

ロシア革命前夜のロシア帝国と現代の日本に少しの共通項を感じているのは事実である。

ただ、本心を言えば、今の日本でロシア革命のような革命が起きるとは一切思っていないことは正直に言っておこう。

 

ロシア革命前夜及び革命直後のロシア帝国には、いろいろな条件がそろっていた。だいたい次のような条件だろうか。

  1. 前述のような分断された社会
  2. 第一次世界大戦という外圧的要因
  3. 革命により、唐突に政治の世界になだれ込んだ民衆
  4. (現代に比べ)人権が軽視されており、過酷な弾圧が選択肢としてとりうる
  5. 「共産主義」という未知の可能性を持った飛び道具を持っている点

今の日本と共通するのは、1のみである。特に、ソ連が崩壊した現代では5が前提として成り立たないのは、一世紀前と全く違った点である。

 

今、分断された社会があって、それがコロナウイルスなどの影響で外圧が加えられたら―――歴史が繰り返すこともなくはないのかもしれない、と思えるのである。

 

私たち一般人が歴史から学ぶことができるのは、「昔の方が現代より優れていないか?」と思ったり、「過去の破滅と現代は似ていないか?」と思い、現代社会をよりよくしていくことではないかと思う。

その点で、ロシア革命を題材にした本書は非常に興味深い。

「二月革命」から「十月革命」へ

ここまで革命が起きる前提条件話についてのみ触れてきたが、この本の副題「破局の8か月」にあるように、この本が題材とするのは革命の過程である。

「8か月」というのは、言うまでもなく二月革命から十月革命までの8か月である。

軽い説明はWikipediaでだいたい概観できるが、この本にはそれがより深く書かれている。

参照

二月革命 - Wikipedia

十月革命 - Wikipedia

革命の推移についてはここでは特に書かないが、はじめ二月革命によって帝政が倒され、臨時政府が立てられる。だが、この臨時政府も、多くの議題に翻弄されてまとまりを欠く。

そして、8か月後に、十月革命でレーニンらのボリシェヴィキが権力を掌握するのである。これがいわゆるソ連である。

 

特にこの本が興味深いのは、一般にはマイナーな人物(レーニンやトロツキー、スターリンなどボリシェヴィキ以外の人物)にもスポットライトが当てられていることである。

 

例えば、この本では、カデット(立憲民主党。くしくも今の日本の野党も同じ名前であるが)の「ナボコフ」という政治家がよく登場する。

彼こそ、「ロリコン」の語源となった小説「ロリータ」の作者として一般に知られる作家・ナボコフの父なのである。

ロリータ (新潮文庫)

ロリータ (新潮文庫)

 

moriishi.com

あまり役に立たない知識であるといったらそれまでだが、革命に翻弄された人々の生きざまを知るきっかけになる良書でもあるといえよう。

 

本の末尾には人名索引もあって親切である。

これまでで最高の「ロシア革命」の本

本筋を外れた記述の多いレビューをしてしまったが、ボリシェヴィキ以外の動きを含めたロシア革命の本を読みたいのならこの本が現状入手難易度の低さと質の高さでは一番であることに疑いの余地はない。

 

帝政ロシアが倒され、共産主義のソ連が樹立するまで、一筋縄ではいかなかった。

当初の革命が破局したことによって、ソ連が誕生したのである。この過程を記した本書は、世界史ファンには楽しめる一冊ではないだろうか。

 

興味を持たれた方は、ぜひ、手に取っていただきたい。

ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)

ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)

  • 作者:池田 嘉郎
  • 発売日: 2017/01/21
  • メディア: 新書
 

▼ボリシェヴィキについて掘り下げるなら、カーのこの本か。