好きなマンガを10個挙げろと言われたら、絶対に入れる作品がいくつかある。
そのうちの一つが、江口寿史先生の『ストップ!!ひばりくん!』である。
まずジャンルとして考えたときに、私は割とラブコメディが割と好きなのだが、その中で『ストップ!! ひばりくん!』は最高のラブコメディであると私は信じている。
だから、どう選ぼうとしても絶対に『ストップ!!ひばりくん!』は私の中で上位にランクインするというわけである。
この記事では私がこの作品を愛し、史上最高のラブコメディである理由を紹介したい。
『ストップひばりくん』作品概要
作品名:「ストップ!! ひばりくん!」
作者:江口寿史
連載期間:1981年~1983年
連載誌:週刊少年ジャンプ
『ストップひばりくん』あらすじ
母を亡くした主人公、坂本耕作は、母の知り合いという謎のおじさん「大空いばり」の家に下宿することになったが…「大空家」は、ヤクザの一家だった!?逃亡しようとする耕作だったが、この家で「美少女」を見かけたことから、逃げるのを思いとどまる。しかし、この「美少女」こそ、大空家の「長男」大空ひばりだったのである…耕作とひばりは同学年で、同じ高校に通うことになる。外では「女」として通しているひばりに、耕作の学園生活は振り回されることになっていくのである…
『ストップひばりくん』登場人物
メインキャラクター
- 坂本耕作(上の画像の左)…主人公。若葉学園に通う高校生(1年生→2年生)。ボクシング部に入部。
- 大空ひばり(同右)…ヒロイン?主人公? 生物学的性は男だが、性自認は女、性指向も男(=恋愛対象は男性)。弱小ヤクザ「大空組」の一人息子で、若葉学園に通っている(耕作と同い年)。
- 大空いばり…大空組組長。
- 大空つぐみ…長女。
- 大空つばめ…次女。ひばり、耕作の二学年上。若葉高校の高校生から大学生に。姉妹の中で女性としてふるまうひばりのことを一番苦々しく思っている。
- 大空すずめ…三女。小学生。
- サブ・政二…組の若頭たち。
- 椎名…耕作、ひばりのクラスメイトで、ボクシング部。ひばりによくアタックしている。
- 理絵…ボクシング部マネージャー。椎名のことが好き。
- 「白いワニ」…原稿に追われた作者の見た幻覚(「白い原稿」の暗喩)。メタフィクション的要素。
「ひばりくん」の魅力
このマンガの登場人物はそれぞれ魅力的なキャラクターたちなのだが、このマンガを唯一無二の物に仕立て上げているのは、やはりヒロイン「大空ひばり」である。
ひばりくんは、男である。
だが、ひたすらかわいいのである。
主人公の耕作は、ひばりが男だとわかっていながら、その可愛さに惑わされていく。読者も同じ感情を味わっていくことになる。
『ストップひばりくん』が最高のラブコメディである理由
これは個人的な意見なのだが、基本的に優れた「ラブコメディ」というのは、どこかに「ロミオとジュリエット的要素」が含まれていなければならない。
すなわち、「ラブコメディ」を演じる両者の間には「禁じられた関係」や「二人を引き離す何か」が存在しなければならない。
このような「障壁」が存在しないなら、さっさと付き合っちゃえよ~となるだけだからである。
その点、『ストップひばりくん』は、完璧な「ロミオとジュリエット」的な要素を含んでいる。
耕作とひばりの完璧な「禁じられた関係」
生物学的には「男性同士」という「禁じられた関係」への誘惑こそが、このマンガの肝なのである。
ここまでの作品紹介の中で、LGBTなどの方々への配慮を欠いている発言があったかもしれない。
しかし、このマンガは1980年代の作品であり、LGBTなどの問題を提起しようとしたものではない。
本来「ヒロインが男」という設定は、単調な「ラブコメディ」へのアンチテーゼとしての「ギャグ漫画」要素として持ち込まれたものであった。
しかし、それゆえ皮肉にもこの作品は完璧なラブコメディになってしまった。
現代ではこの設定を「ギャグ」として作品化することは、ポリティカルコレクトネスの観点から実現しにくいだろう。
たとえば、最近の少年マンガの「健全さ」に不満がある人もいるだろう。世の流れとして、このような「健全さ」を否定するつもりはないが、私も昔の過激な下ネタなどを含む作品を読みたくなることは多い。
ある意味、『ひばりくん』における「男の娘」ネタも同様である。現代においてはやや配慮に欠ける面もあるが、やはり面白いのである。
そして、当時の価値観が反映されている点も面白い。
この作品は「男同士のカップルはハッピーエンドを迎えることができない」という当時の価値観を反映し、「禁じられた関係」を完璧に演出しているのである。
ある意味において、この作品は「現代作品では不可能な境地」を踏破しているともいえるのである。
他作品への影響
ヒロインが女性装をした「男の娘」であるという作品は、現代なら一部で市民権を得ているものの、その最初の例はこの作品ではないかと言われることもある。
ある意味、マンガ史・サブカルチャー史においても重要な役割を果たしているのがこの作品なのである。
やや推測が入り込むが「ストップひばりくん」は、その知名度以上にいろいろなマンガに影響を与えている作品なのではないかと思う。
ここまで特に言及してこなかったが、大空家は「ヤクザ」である。道場なんかもある家である。
そもそもこの設定自体がマンガの面白さを約束しているようなものであるが、さらに大空家には(ひばりを除いて)美人三姉妹がいて、それぞれいい役を担っている。
高橋留美子の超有名作『らんま1/2』の舞台である天道家は、ヤクザではないものの「道場」がある家であり、天童家には美人三姉妹がいるなど、共通点が多い。
「ストップひばりくん」は、『らんま1/2』にも少なからず影響を与えている作品なのではないか、と思うこともある。
絵のきれいさ
古いマンガを読むことへの抵抗の大部分は、その絵柄の古さにあると思う。
しかし、この『ストップひばりくん』の絵柄は、30年以上前の作品とは思えないほど美麗である。
作者の江口寿史先生は、今でもイラストレーターとして活躍されていて、その画力は折り紙付きである。
Twitterもなさっていて、今のお仕事ぶりを拝見することができる。
先ほどは「ストップひばりくん」の他のマンガへの影響について紹介したが、絵柄のきれいさが与えた影響も、間違いなくこのマンガの果たした功績である。
おわりに
『ストップひばりくん』は、長らく完結していない作品だったが、「コンプリート・エディション」によって一応完結した。
『ストップひばりくん』はいくつかのバージョンがあるが、読むなら下に記した「コンプリート・エディション」(全三巻)がおすすめである。
無料で全巻試し読み可能
そして、特筆すべきは、三巻全てが「Kindle Unlimited」で読めることである(記事投稿現在)。記事投稿現在初月無料なので、実質無料で試し読みできることになる。
KindleはスマホやPCのアプリでも読むことができるので、体験したことがない方は一度試してみてはいかがだろうか。広告がない分、スマホのマンガアプリ以上の快適さで読むことができる。
『ストップ!!ひばりくん!』は連載していた集英社のマンガアプリ(ジャンプ+(ジャンプラ))では今のところ配信されていないようだが、Kindle Unlimitedで補って余りある。
このサービスもあわせてお薦めしたい。
▼コンプリートエディションの全三巻
- 作者:江口寿史
- 発売日: 2016/07/13
- メディア: Kindle版
▼『ストップ!!ひばりくん!』のエンディングについての記事です
▼アニメも
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