「宦官のつくり方」ー三田村泰助『宦官』【書評・感想】

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家の本棚にある中公新書のバックナンバーを見ていたら、異様に番号が若い本がいくつかあった。

その一つが、この三田村泰助『宦官―側近政治の構造』ーー通し番号で7冊目の中公新書ーーである。(もう一つは宮崎市定『科挙―中国の試験地獄』(中公新書15)だった)

 

確かに古い本ではあるのだが、現代においてもこの本の持つ面白さ・興味深さは変わらない。むしろ、その面白さはこの本が古いものになればなるほど円熟味を増しているようにも思う。

今回は、この中公新書の不朽の名作を紹介したい。

宦官(かんがん)―側近政治の構造 (中公新書)

「宦官」という「第三の性」

この本が扱うのは、その題名の通り「宦官」(かんがん)である。

まず、「宦官」とは何者か? という点について一応説明しよう。

 

宦官とは、去勢された男性のことである。

 

なぜ彼らは去勢されたか?

刑罰の結果というのが一つにはある。しかし、それだけではない。

中国史上では、自ら望んで去勢する人々も多く存在していたのである(これを「自宮」という)。

ーーそうというのも、「去勢された男子」にしか許されない特権がたくさんあったからである。

宦官に許された特権

すなわち、宮廷の中ーー皇帝以外の男性が立ち入ることを許されない空間ーーに入り込むという特権である。

そして、中国史ではこの宦官が政治に大きく関与し、時には国を亡滅ぼすこともあった。

本書は、「宦官」という闇の存在から中国史を語る本である。

教科書が教えてくれない中国史

ここまで述べたように、宦官はその特権を楯に、中国史上で何度も世を乱す原因となった。

しかし、「宦官」という存在は、例えば学校の世界史の授業などではそこまで重視されなかったのではないだろうか?

 

もちろん、その理由は宦官という存在の「いやらしさ」にある。

 

ーー私もかつて塾で世界史を教えたことがあるが、宦官の説明はプリントに数行書くだけで終えてしまった記憶がある。

 

しかし、「宦官」という存在は無視できるものではない。

この本は、学校では扱われないけれども重要な存在である重要である「宦官」を、いやらしさも含めて記述している。

宦官のつくり方

この本で一番センセーショナルな部分は、「宦官の作り方」を記述している部分ではなかろうか。

「宦官の作り方」のうち、少しマイルドな例(文明化した後の中国の例)を紹介しよう。

手術を受けるものは、炕(温床)に半臥の姿勢ですわる。

助手の一人がその腰を、他の二人が足をそれぞれしっかり押える。

ここで刀をもった執刀者が自宮志願者の前に立ち、「後悔不後悔」(後悔しないか)と念をおす。いよいよという時に少しでも不安の色が見られると手術は行わない。もし承諾の意が示されると、刀は一閃して、そこに宦官が出現する。

ーーちなみに、中国以外の国ではもっと荒々しい処置がとられることが殆どだったようであるが、それを紹介するのには猟奇趣味が過ぎるので、記事で紹介するのはやめておこう。

 

この「宦官の作り方」のような「絶対に学校で習わない中国史」を読むことができるのは、新書の魅力の一つだろう。

教科書に退屈した高校生たちには、この本をお薦めしたい

 

卑俗な興味から入っても良いから、ぜひ世界史の面白さを知ってほしいと思うのである。

中国の「女禍」と宦官

また、本書は宦官についての本であるが、「宦官勢力の増長」というものには「後宮の女性たちの増長」がつきものである。

中国史上に、女性の皇帝はたったの一人しかいない(これが則天武后である)というのは有名な話だろう。ーー中国では、女性が権力を握ると世の中が乱れると思われていたのである。

 

本書は「どうして中国では女性が権力を握ると世が乱れたのか?」という問いにも、「宦官」という視点から一つの答えを出している

おわりに

この本は古い本であるが、だが、今もその中国史の入門書としての意味を失っていない。

そして、この本は「最後の宦官」が生きていた時代に書かれた本だからこそ、これからもなお一層の価値を持ち続けるのではないかと思う。

 

▼今出ているのは「改版」のようで、私が読んだのとは多少内容が異なるかもしれない。Kindle版も出ている。

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