ノベライズ不能の超展開ー藤本タツキ『チェンソーマン』は、人生で最狂のマンガかもしれない

チェンソーマン

ここ10年くらい週刊誌なんて買っていなかったが、最近10年ぶりに週刊少年ジャンプを買っている

鬼才・藤本タツキによる『チェンソーマン』というマンガがあまりに急展開過ぎて、単行本を待つことができなくなったからである。日々Twitterなどで断片的なネタバレを食らううちに、単行本が待てなくなりジャンプ本誌を買うことにした。

評価と好みが分かれる作品なようだが、今回は『チェンソーマン』の面白さについて書いていきたい。もちろん連載中の作品についての評価ではあるが、個人的には今一番面白いマンガだと思う。

2020年12月追記:チェンソーマン一部完結! もう少し長く楽しみたかったですが、最後まで楽しかったです! 単行本を読む人も、この記事と同じ体験をすることになると思うので、この記事はチェンソーマン連載中に書いたままにしておきます。

チェンソーマン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

『チェンソーマン』の面白さ

ここからは、「チェンソーマンのどこが面白いのか」を、私なりに書いていきたい。

ネットの評判を見る限り合わない人には合わないみたいだが、ドはまりする人は信者になるようなので、ぜひ興味を持った方は読んでみてほしい。私は信者である。

テンポの良さと言語センス

冒頭でも書いたが、私が『チェンソーマン』を週刊誌上でリアルタイムで読みたいと思ったのは、展開があまりにも衝撃的だからである。

ミスリードに次ぐミスリードもあり、ここまで早く次の展開を知りたいと思わせるマンガは私の人生の中でもほとんどなかったと思う。

当然展開が目まぐるしく変わるから、テンポも良い。

『チェンソーマン』はまだ連載中だが、そろそろ折り返しには来ている頃だと思う。このマンガを読んでいて「展開が遅いなー」と感じたことは一度もない。

情報化にともなう高速消費社会を象徴する作品である。登場人物がすぐ死ぬ様は、まさに高速消費である。

しかし、思いのほか作品の雰囲気は明るい(最近そうとも言えないので、少なくとも8巻までは)。その理由は、主人公のキャラクターによるところが大きいと思う。

主人公デンジのバカっぷり

物語の主人公はデンジという青年で、彼が「チェンソーの悪魔」の心臓を与えられて「半分悪魔」の体になり…… というのが物語の筋である。

このデンジが、不遇な少年時代を過ごしたゆえに、無学でバカなのがテンポのよさにも影響を与えている

バカというと聞こえが悪いが、切り替えが早いのである。

私は、少年マンガで(必要以上に)主人公がうじうじ悩んだりしているとイラついてしまうタイプなのだが、『チェンソーマン』はそのようなイラつきと無縁である。

主人公デンジ以外にも、虚言癖を持つヒロイン(?)など、この作品はとにかく人物造形が面白い(もっとも、テンポのよさゆえに多くの人物は描かれないまま死んでしまうが……)。

↓こいつの虚言癖がヤバい。そもそも人間じゃなくて「魔人」なので仕方ないのだが……

チェンソーマン 2 (ジャンプコミックスDIGITAL)

意味不明な展開

ネタバレは極力避けるが、最近ーー単行本化したら9~11巻にあたると思う部分ーーは、マジで意味不明な展開が過ぎている。

この「意味不明な展開」が『チェンソーマン』をマンガ史に残る傑作にするのか、それとも急失速した駄作にさせてしまうのかはまだ確定しないが(最近の展開を見る限りその心配はまったくもって不要だと思うが)、今までに見たことがないような展開のマンガを読みたい人にはぜひお薦めしたいマンガである。

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『チェンソーマン』はノベライズ不能である

私はこのブログを「そこそこ硬派な書評ブログ」として運営してきたが、ここであえて『チェンソーマン』を紹介したのは、『チェンソーマン』の表現は小説には絶対することができない境地に到達していると思うからである。

硬派な小説だけ読んで、マンガを毛嫌いしてきた人間にむしろ薦めたいのが『チェンソーマン』というマンガである。

肌に合うか合わないかはわからないが、『チェンソーマン』を読めば、この作品が絶対に小説化できないことーーマンガにできて小説にできない表現方法もあるということーーを理解してもらえるだろう。

(集英社の方、もしノベライズを考えていらしたらすみません)

小説にできないストーリーテリング

もちろん、「小説にしかできない表現」というのも多々あるし、それが軽視されがちな現状は見過ごせない。だから私は最近こんな記事を書いた。

moriishi.com

その一方で、マンガにしかできないストーリーテリングを知りたいなら『チェンソーマン』を読むべきである

たとえば「小説」という表現方法の抱える弱みの一つは、「事実の確定を曖昧にする」ことができないことだと思う。

わかりやすい例を挙げると、小説で「死んだふり」を表現するのは難しいのである。

文章で「死んだ」と書いたらウソになるし、「死んだふりをした」と書いたら、読者は「なんだ死んでいないのか」と思う。ーーもちろん、色々な観察者を通して描いたり嘘をつくのを厭わなかったりすれば克服できる課題ではあるが、小説が苦手としている表現なのは確かである。

週刊誌連載を強みに変えている

しかし、『チェンソーマン』では、このような「小説には難しい」表現、すなわち一部が絵として描かれているが、結局どうなったのかよくわからない描写ーー多義的な解釈が可能な描写ーーが多用される。

だから、読者は「結局あれはどうなったんだ!?」と気になり、毎週ジャンプ本誌での連載が気になってしまうのである。

どうなったのかが気になって、単行本の発売は待てなくなってしまう。

私は『チェンソーマン』という作品こそ、週刊誌連載の強みを存分に発揮していて、週刊誌を救う存在になれる作品だと思う。

私はもともと『ONE PIECE』なども単行本派だったので、今後の人生で週刊誌を買うことはないと思っていたが、買ってしまった。週刊誌も捨てたもんじゃない。

これからの週刊誌の作品の一つのモデルを、『チェンソーマン』はつくっているのかもしれない。

マンガという表現方法の駆使

大きなストーリーテリングの方法についてもそうであるが、『チェンソーマン』は、細かい伏線の張り方についても、マンガにしかできない表現方法を用いている。

例えば「絵画」を伏線とするーーというようなことは小説には絶対にできない表現である。

そして、私はあまり知識がないので語るのは控えるが、コマ割りも映画的で見ごたえがある。また、見開きの一枚絵も多用される。一枚絵の構図は天才的と言うほかない。

まさにマンガという表現方法を存分に駆使した作品が、『チェンソーマン』である。

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おわりに

『チェンソーマン』はまだ連載中なので確定的な評価は下せないが、ここまではマジで面白い

完結後追記:最終盤はもっと細かく描写してほしかった!と思うところもあったけれど、衝撃に次ぐ衝撃でリアルタイムでの連載はとても楽しめました。単行本も一気読みするのがおすすめです。

第二部が始まるのが今から楽しみですね~!

絵柄や軽いあらすじなどは公式サイトをご参照いただきたい(記事投稿日現在、第1話の試し読みも可能)。1話はポチタが可愛いだけで、あまり展開の面白さはわからないと思うので絵柄の参考程度に。

www.shonenjump.com

あまり「ジャンプらしくない」作品なので、評価が分かれている作品のようであるが、ジャンプはもう卒業したと思っている成人の方々も、ぜひ一度読んでみていただきたい。

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