「一冊で終わるマンガ」の傑作―あだち充『じんべえ』の凝縮された魅力

じんべえ

「一冊で終わるマンガ」で一番お薦めのマンガは? と聞かれたら、私はあだち充の『じんべえ』を推す。(もっとも一冊で終わるマンガなんてあまり思いつかないが…笑)

「あだち充マンガを読んでみたいけど、少し長い気がする」と思っている方がいらっしゃったら、ぜひこの『じんべえ』を入門として読んでみてほしい

短いし、電子書籍としても出されていて、非常に手に取りやすい作品となっている。

じんべえ

『じんべえ』の設定

主人公は高梨陣平という30代のおじさんで、職業は水族館の職員。「じんべえ」と呼ばれている。

彼は妻と死別し、妻の連れ子の美久(女子高生になった)と暮らしている。

この作品が描くのは、そんな二人の、心の揺れ動きである。

――あだち充は本当に「血のつながらない親族」という設定が好きである(苦笑)

往年の名作『みゆき』にしても、最新作『MIX』にしてもそうである。

 

話が逸れたが、そんなあだち充に頻出のテーマ「血のつながらない家族」の心の揺れ動きを、一番ストレートに扱っているのはこの『じんべえ』だと思うのである。

「血がつながらないと言っても近親者の恋愛は生理的に無理……」という方にはお薦めできないので、そこだけは断っておく。

『じんべえ』のストーリー・ラスト

ネタバレしてしまうと面白くないので書かないが、少しこの作品のラストについて触れておこう。短い作品なので、ラストに触れないと作品のストーリーに触れることができない。

美久はじんべえの元で暮らしているが、美久には実父もいるのである。

そして、物語は美久が「じんべえの元で暮らし続ける」のか「実父の元で暮らすようになる」のかの二択で、揺れ動くことになる。

この美久の実父というのも、実はじんべえと因縁のある人物なのである。

じんべえは実は高校時代はサッカー界で少々名の知れたゴールキーパーで・・・

――本当にあだち充はスポーツとラブコメを絡めるのが上手いなあと感心する。

この作品を読めば、あだち充の作品がどのような作品かわかるといっても過言ではないのではないだろうか。

そう思わせる、あだち充のエッセンスを一冊に凝縮した作品が『じんべえ』なのである

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おわりに

あだち充は同じような設定で、同じような顔の登場人物で、同じようなストーリーを展開させ、全く違う感動のさせ方をさせる

この作品を面白いと思ったら、ぜひ他のあだち作品も読んでみてほしい。

『じんべえ』と関連度が高い作品であれば、『みゆき』『スローステップ』がおすすめであるが、やはりあだち作品のメインストリームは『タッチ』『H2』『ラフ』である。『じんべえ』を入り口として、あだちマンガの面白さを体験してほしい。

ちなみに、この『じんべえ』は1998年に松たか子・田村正和主演でフジテレビでドラマ化もされている。私はドラマ版は見れていないが、よかったらドラマ版も探してみてほしい。

小学館文庫の『じんべえ』の巻末には松たか子のエッセイが掲載されている。

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