新書はよく読む方である。まず大きさがいい。本棚にすっぽり収まる。
というわけで新書はよく買うのだが、ここで新書の主要なレーベルの「デザイン」について独断と偏見で評論してみたいと思う。
岩波新書
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まずは、新書の祖、岩波新書から。
(この記事では五十音順で最初になっただけだが)
内容の格調高さはもちろんのことであるが、デザインもクラシックかつシンプルで、素晴らしい。
赤版(現在刊行されているのは新赤版)のほかに、青版と黄版がある(青版は実際には緑である)。
なお、新赤版以外の赤版や、青版・黄版のデザインは1938年の創刊当時から全く変わらない。新赤版は少しだけ現代風のデザインになっている。
下の画像が創刊当時のデザイン(国立国会図書館所蔵)。
デザインは美術史家の児島喜久雄。児島喜久雄さんの名前は原田マハさんの小説「リーチ先生」にも登場していた。
NHK出版新書
最近勢いがあると思う、NHK出版新書。デザインとしては可もなく不可もなく…という感じで、特にコメントはない。ただ、NHK出版新書の前身にあたる「生活人新書」のデザインの方が、個人的にはシンプルで好き。
ちなみに生活人新書は、こんなデザイン。表題のフォントとかは踏襲しているようにも見える。
角川新書
2015年に角川書店の複数レーベル(角川oneテーマ21、アスキー新書など)が統合されてできた角川新書。
シンプルな「角川新書」という名前通り、デザインも非常にシンプル。比較的シンプルだった角川oneテーマ21よりも、さらにシンプルになっている印象がある。
悪く言えばつまらないデザインだが、個人的にシンプルなデザインはが好きなので支持する。
(下は角川oneテーマ21の画像)
講談社現代新書
いちばんデザインがいいかどうかは置いておいて、いちばん集めたくなるのがこの講談社現代新書だと思う。本によって色が違う新書は、おそらく講談社現代新書のみである(ジャンルごとに色が違う岩波新書などを除いて)。
現代新書の中では、全く同じ色を使っているものはないよう。色相環のように現代新書を並べられたら壮観だろうな、と思いつつ、ついつい買ってしまう。このブログで講談社現代新書の紹介が多い傾向にあるのも、おそらくそのせい。
なお、現在のデザインは中島秀樹で、2004年から現行のデザインが使用されている。
それ以前は杉浦康平によるデザインが使用されていた。旧デザインは格調高さも感じるが、やはり旧時代のデザインという感は否めない。
光文社新書
シンプルでよい。光文社新書のチャームポイントは斜めのラインである。
シンプルなデザインが好きなので、このデザインも好きなのだが、特にコメントもない。万能のデザインであるが、少しレーベルの特徴づけもしてほしい気もする。
なお、光文社新書の前身にあたる「カッパブックス」は、こんなデザインだった。
集英社新書
集英社新書の原稿のデザインは、黄色っぽい感じの色の背景にゴシック体の題字。
このデザインは、他の新書と差別化されている点はいいが、少しかっこよくないと失礼ながら思っている。講談社現代新書のゴシック体はかっこいいが、集英社新書のゴシック体はもっさりしているように思ってしまう。
昔のデザインはグレーに明朝体でかっこよかったんだけどな~と思う。
なお、集英社新書は、旧デザインも現行のデザインも、原研哉によるデザイン。
原研哉は著作もいくつかしており、特に「白」は名文であると思う。かつて東大の現代文の入試にも出題されたことで有名である。いっそ、集英社新書も白くしてしまえばよかったのに… と思わないでもない。
また、集英社については、子会社の集英社インターナショナルが「インターナショナル新書」という新書を出している。インターナショナルという名前に、真っ赤な表紙に共産主義を連想するのは私だけだろうか。
新潮新書
新潮新書の装丁は、よく言えば味がある。悪く言えば「おじさん向け」である。
サラリーマンが通勤中に読む本のデザインとしては、本当によく似合っていると思う。50代過ぎのおじさんが集英社新書や光文社新書を読んでいるところよりは、この新潮新書を読んでいる方がイメージしやすい。
別に「サラリーマンに似合う」というのはけなしているわけではない。失礼な言い方もしたが、世のおじさんをけなしているわけでもない。
そもそも新書の読者のボリューム層は50代以降と聞いたことがあるが、だとしたら、新潮新書のデザインは完璧である。「バカの壁」などには一番似合っている装丁ではないだろうか?
レーベルの特徴に合った良いデザインだと思う。
ちくま新書
新潮新書と一転して、学術偏重の感すら受けるちくま新書。
デザインも格調高いが、モダンな印象も同時に受けるデザイン。というのも、ちくま新書の歴史は意外に新しく、1994年創刊だからだろう。
幅広い年代の教養人に支持される理由は、そのデザインにもあるのではないか。
中公新書
1962年創刊の中公新書。やはり、デザインとして一番好きなのは中公新書である。デザインは創刊当時から変わらない。
あまりに有名であるから、「新書といえばこれ」という方も、いるのではないか。歴史を感じる重厚なデザインであり、また古っぽさを感じさせないデザインである。格調の高さは岩波新書と双璧であるが、戦後のモダンな感覚では中公新書が勝っているのではないか。
このデザインのすばらしさについては、多くを語る必要はないだろう。
装丁は建築家・白井晟一によるもの。白井の代表的な建築としては、渋谷区の松涛美術館が挙げられる。また、中公新書の背にある「RC」のデザインは、安野光雅によるもの。
文春新書
文春新書のデザインは、悪く言えば中公文庫の劣化版だが悪くない。
もし、私が「新しく新書のデザインを作れ」と言われたら、この文春新書に限りなく近いデザインを想定するのではないかとさえ思う。
新書の世界の中で、ありそうで少なかった「濃紺」という色を「文春新書の色」にしてしまったのは、戦略的に非常に優れていたのではないか。
平凡社新書
1999年創刊の平凡社新書。意外と歴史は新しい。
たまご型で、かわいい。しかし、かわいいだけでなく、内容の質の高さも感じさせるのが、さすがは東洋文庫や平凡社ライブラリーを擁する平凡社という感じである。
装丁は菊池信義で、2009年に赤色から現行の青色に変更された。
個人的新書装丁ランキング
失礼ながら、独断でランキングを発表させていただこう。
このランキングで不快な思いをさせてしまったら、心よりお詫びする。
トップ4-新書「四天王」
第一位:中公新書
第二位:岩波新書
第三位:講談社現代新書
第四位:ちくま新書
第一位~第四位は、表紙自体でブランドを確立していると思う新書。デザインがいいから本棚に並べるのが楽しい。
まさに「新書四天王」と呼んで差し支えないだろう。
第5位~8位
第五位:平凡社新書
第六位:光文社新書
第七位:文春新書
第八位:角川新書
第五位~第七位は、良くも悪くも「平凡」。可もなく不可もない。少し没個性的なのは否めないが、マイナスの要素はない。
第9位~
第九位:新潮新書
第十位:NHK出版新書
第十一位:集英社新書
第9位~第11位は、個人的には僭越ながらもう少しデザインを頑張ってほしいと思っている。
よほど内容が良くない限り、本棚に並べるのも躊躇われる…… というと大げさだが、実際デザインで売れる機会を逸失していることも多少はあるのではないか? と考えてしまう。
余計なお世話だが、一度装丁の変更も検討していいのではないだろうか。ぜひ検討をお願いしたい。
今後の新書の装丁はどうなるのか
新書の現行のデザインについては、岩波・中公といった「圧倒的な伝統」を誇る新書のほかには、2000年前後の新書ブームの際につくられたものが多い。
もし仮に今後、新書ブームが再び起きるなら、そこでデザインの変更が一斉に起きるのではないかという気もする。そうなったら楽しみである。
だが、今後は本ごとに表紙を変えていく傾向が強まるという気もする。
例えば、昨年最も売れた新書の一つである「一切なりゆき」などは、樹木希林の写真をフィーチャーしたものだった。この作品を文春新書のシンプルな紺地で出すのは考えられないだろう。
必ずしも表紙そのものをすべて変えなくても良い。
おそらく今後は、表紙より「帯」の時代なのだろう。
今はどのレーベルも、帯に注力しているような気がする。ここでは紹介しなかったが、最近書店での売り上げが好調なソフトバンク新書(SB新書)などは、やはり個別表紙や帯に力強さがある(▼SB新書の例)。
しかし、表紙自体も各社がこだわりをだしてほしいというのが、ひとりの新書ファンとしての感想である。
デザインについても各社が切磋琢磨し、レーベルの特徴に合った装丁になると、より買いそろえるのが楽しみになる。
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