大木毅「『砂漠の狐』ロンメル」を読んだので、感想を記そうと思う。
結論から言えば、非常に面白い本であったと思っている。
本書の概要ーロンメルとは何者か
ロンメルと言えば、「砂漠の狐」The Desert Foxと呼ばれた、第二次世界大戦期のドイツの英雄的軍人である、ということはうっすらと知っている方が多いだろう。
しかし、そのような「ロンメル評」は、どのようにして作られたものなのだろうか。
本書は、これを一つの根底的なテーマにしている。
ロンメルについての人々の関心の高さは、ロンメルの生前、戦時中まで遡る。
ロンメルは第二次世界大戦で、アフリカ戦線の軍団長として名をはせた人物である(当時、ドイツ・イタリアの枢軸国は、北アフリカでもイギリスとの戦線を展開していた)。
ロンメルの名声は、敵国イギリスにも響いており、本国ドイツではその功績はそれ以上に顕彰された。
だが、ロンメルは勇猛にもアフリカで戦ったものの、最終的にはイギリスの優位により退却を余儀なくされる。
そして、ロンメルはフランスの軍団の指揮に転じる。
ここで、ロンメルは第二次世界大戦の趨勢を決定づけることになる連合国の「ノルマンディー上陸作戦」に対し、作戦を立てる。だが、ロンメルの作戦はヒトラーに聞き入られることはなかった…
ヒトラーの政策に幻滅したロンメルは、ヒトラー暗殺計画に加担するが、暗殺は失敗する。
そして、ヒトラーの粛清によって、死を賜るのである…
これが、ロンメルに関する従来の日本での「定説」である。
この定説*に、時には挑戦し、時には再確認する試みが、本書である。
ロンメルの出自、それによる性格、そして時の運、ロンメルを利用しようとした人々の存在… これらの複合的な結果として、「砂漠の狐」ロンメルは生まれたのである。
これらの複合的な要因を解き明かすのが、本書である。
帯にもある通り、ロンメルの「虚像」と「実像」を本書は解き明かす。
*「定説」については複数あるが、割愛させていただいた。
物語としての面白さ
この本の魅力は、ロンメルというエキサイティングな人物を解き明かす行為の面白さにある。
ロンメルという題材自体が非常に魅力的なのだが、もう一つ、著者の小説調の構成にも、この本の魅力はある。
著者は、新書大賞を受賞した「独ソ戦」(岩波新書)の著者である大木毅氏である。
氏は、れっきとした歴史学の教育をうけた専門家である。
だが、大木氏は、「赤城毅」というペンネームを持ち、小説家としての顔も持っている。
この本「『砂漠の狐』ロンメル」は、まさに氏の、歴史家としての顔と小説家としての顔が相乗効果の結実した作品である。
この本は、構成も惹きつけられるものだ。
この新書は、ロンメルの最期から描かれる。
彼が最後にはヒトラー暗殺計画に加担したとされ、ヒトラーから死を賜ることになったのは、前述の通りである。「ロンメル最期の日」に、妻や家族はロンメルをどう見たか、という回想から本は始まる。
ここで、読者は世界に一気に引き込まれる。
そして、ノンストップでロンメルの一生を追うことになる。
「面白すぎる」新書
前に述べたように、大木氏は「独ソ戦」(岩波新書)で「新書大賞」を受賞している。
しかし、この「『砂漠の狐』ロンメル」は、あまり注目されていないように思う。というのは、ある意味ではこの新書が、あまりに「新書らしくない」からかもしれない。というよりは、「小説」として面白すぎるからである。
「歴史書」にしては、修飾の多い文体と感じることもあった。そんなこともあって、読者はこの本に小説として没入してしまうのである。
著者の能力があまりに遺憾なく発揮された結果、この本が歴史書と歴史小説の「境界領域」として、逆に注目度合いが下がってしまっているのかもしれない。
何はともあれ、この本は是非お薦めしたい作品であり、ロンメルという人物の魅力をわかりやすく伝えている本であることに、変わりはない。
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