このブログでは読んだ本の感想を気ままに書いているが、これまでに記事を書いたアメリカ文学もそれなりの数になってきたので、このページでまとめて紹介したい。
海外文学には、それぞれその国の特徴があるわけであるが、アメリカ文学にも特徴がある。
これまで読んできたアメリカ文学の特徴を簡潔にまとめると、以下のようなことが言えると思う。
②南北戦争に起因する南北格差
③戦後はSFや実験的な文学も台頭
アメリカ文学紹介
アメリカ文学の黎明/奴隷制へのまなざし
エドガー・アラン・ポー
アメリカ文学がいつ始まったかについては多くの議論があるようだが、今も広く読まれているアメリカ文学最初期の作家というと、エドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe, 1809-1849)が挙げられるだろう。
その代表作『モルグ街の殺人』は推理小説の元祖とも呼ばれ、「シャーロック・ホームズ」シリーズの著者コナン・ドイルにも大きな影響を与えた。エドガー・アラン・ポーは、いうまでもなく江戸川乱歩の筆名の由来になった人物であり、名探偵コナンの主人公・江戸川コナンも元をたどればポーに行きつく。『モルグ街の殺人』はここでネタバレはしないが、小学生のころに挿絵つきのもの(子ども向けの海外文学全集だったと思う)を読んだときはかなりトラウマになった。
また『黒猫』や『アッシャー家の崩壊』などの代表作もホラー的な作品で、今読むと古典的すぎるきらいはあるかもしれないが、今も多くの作品のオマージュの対象になっている重要な作品なので、読書好きの方にはぜひ読んでみてほしいと思う。
特に条件もなく、アメリカ文学のおすすめ作家を誰か一人挙げてほしいと聞かれたら、結局エドガー・アラン・ポーの名前を挙げるかもしれない。エドガー・アラン・ポー(1809-1849)は、1776年のアメリカ建国以後、アメリカで文筆によって[…]
ポーが残した作品はホラー小説以外にも多岐にわたる。特に詩人としての評価も高く、最も有名な詩は「アナベル・リー」だろうか。この詩はナボコフの『ロリータ』でも引用されている(ちなみにポーもロリコンだったといわれる)。
ポーはアメリカで最初期の文筆によって生計を立てようとした人間だったが、実は生前のポーは自身の難のある生活も相まって、困窮した生活を送っていたという。しかし、ポーの作品の魅力の一つでもある「狂気」は、もしかしたらそういった困窮によってもたらされたのかもしれない。
ハーマン・メルヴィル
ポーよりも10歳ほど年下の作家としては、ハーマン・メルヴィル(Herman Melville, 1819-1891)がいる。メルヴィルも現在ではアメリカ文学史上に屹立する文豪として高く評価されているが、生前は文筆によって生計を立てることは一度もできなかった。
代表作『白鯨』は、ものすごく長大で難解な作品だが(ゆえにこのブログで記事を書けていない)、たとえば「スターバックス」という店名は『白鯨』の登場人物からとられているし、今もアメリカ文化に強い影響を残している作家である。
メルヴィルを初めて読むなら、中編『書記バートルビー』が読みやすい。カフカを先取りした不条理文学とも評されるこの小説は、普段は大人しいのだが決められた仕事以外のことを頼むと「しないほうがいいのですが」(I would prefer not to)と言って何もしないという書記バートルビーを描いた小説である。
短編小説の名手として知られるノーベル文学賞作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスが「およそ文学における最高傑作のひとつと言っても過言ではない」と評価した短編小説が、19世紀アメリカの作家ナサニエル・ホーソーンの「ウェイクフィールド」という短編である[…]
ナサニエル・ホーソーン
メルヴィルが絶賛し、親交を結んでいた作家として、ナサニエル・ホーソーン(Nathaniel Hawthorne, 1804-1864)がいる。
ホーソーンの代表作は、17世紀のピューリタン社会を舞台に、不義の子を産んだ(=罰として緋色の「A」の文字を着用しなくてはいけなくなった)女性へスター・プリンを描いた『緋文字』である。
このブログではホーソーンの短編「ウェイクフィールド」についても紹介している。
短編小説の名手として知られるノーベル文学賞作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスが「およそ文学における最高傑作のひとつと言っても過言ではない」と評価した短編小説が、19世紀アメリカの作家ナサニエル・ホーソーンの「ウェイクフィールド」という短編である[…]
ハリエット・ビーチャー・ストウ(ストウ夫人)
そんなポーやメルヴィルと近い時期に生まれた作家として挙げられるのが、ストウ夫人ことハリエット・ビーチャー・ストウ(Harriet Beecher Stowe, 1811-1896)である。
先述したとおり、アメリカ文学の一つの特徴に、奴隷制の歴史を背景にした人間の尊厳への深いまなざしが挙げられるが、彼女が1852年に書いた『アンクル・トムの小屋』こそ、その嚆矢にて最も著名な作品といえるだろう。この作品は世論を動かして奴隷解放宣言にもつながった象徴的な作品であり、かのリンカーンはストウ夫人に「この小さな女性が大きな戦争を引き起こした」と言ったという逸話もある。
マーク・トウェイン
『アンクル・トムの小屋』の影響もあって引き起こされたのが南北戦争だが、南北戦争に従軍したといわれる著名な作家といえば、マーク・トウェイン(Mark Twain, 1835-1910)である。
トウェインといえば『トム・ソーヤーの冒険』が有名だが、その続編またはスピンオフ小説といえる『ハックルベリー・フィンの冒険』(1884年)では、主人公ハックと逃亡奴隷ジムとの友情を通じ、差別の不条理が描き出されている。文学的には『ハックルベリー・フィンの冒険』の方が評価が高いといわれるのが、『トム・ソーヤーの冒険』が子どもにもわかりやすい冒険譚であるのに対し、『ハック~』はこのような社会問題を描き出しているからである。
またトウェインは文学史的には、少年に語らせることにより、従来の文語体ではなく口語文学というアメリカ文学に新しい表現の可能性を開いたといわれる(このあたりは私の英語力が及ばないのでよくわからない)。両書ともに多くの訳が出ているが、個人的には柴田元幸の訳をおすすめしたい。
ヘンリー・ジェイムズ
トウェインより少し若いが、同世代の作家として挙げられるのは、ヘンリー・ジェイムズ(Henry James, 1843-1916)であり、彼はアメリカ人とヨーロッパ人の文化的対立を扱った作品が多い。今やアメリカとヨーロッパの文化的対立はそこまで顕著ではないと思うが、この時代のアメリカ人にとってこれは大きな問題であったということが、ジェイムズの作品を読むとわかる。
代表作『デイジー・ミラー』は、まさにアメリカ出身の若い女性がヨーロッパ社会に翻弄される様子を描いている。もしかしたら『ねじの回転』の方が良く知られているかもしれないが、これは多層的な解釈を可能にしたホラー的な作品で、読書好きの方にはぜひ一度読んでみてほしい。私は、『ねじの回転』における”犯人”は〇〇だと思っているのだが……これについては言わないでおこう。
失われた世代
F.S.フィッツジェラルド
ここで南北戦争に話を戻すと、1861年から1865年にかけて続いたこのアメリカ史上唯一にして最大の内戦(Civil War)の影響は、20世紀に入ってからも多くのアメリカ文学で見ることができる。
少し時代間隔が空いてしまうが、たとえば第一次世界大戦と第二次世界大戦の戦間期、「失われた世代」の代表的作家、F.S.フィッツジェラルド(F. Scott Fitzgerald, 1896-1940)は、しばしばその作品で南部に肩入れしていると評される。
南北戦争により、アメリカ南部はさながら「敗戦国」のようになる。日本人にとって同じ国の中の対立は少しイメージしにくいところがあると思うし、私もアメリカ史を学んでも南部と北部の南北戦争終結後の分断についてはよく分かっていなかったのだが、やはりアメリカ文学を読むと南部と北部の文化的・心理的分裂を読み取ることができる。
実は映画で有名な『ベンジャミン・バトン』の原作はフィッツジェラルドの短編小説なのだが、この物語の舞台も南部である。フィッツジェラルドの作品は直截南部とは何かを描いているわけではないが、アメリカ国内の格差というものを意識すると、さらに深く読むことができる。
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』というと映画が有名だが、原作は『グレート・ギャツビー』で有名なアメリカの小説家フランシス・スコット・フィッツジェラルドの短編である。ご存じの方も多いと思うが、「老人の姿で生まれて、歳を重ねるごとに[…]
また代表作『グレート・ギャツビー』(1925)は、「狂騒の20年代」とも呼ばれる1920年代のアメリカの繁栄と退廃を象徴する作品として高く評価されている。主人公ギャツビーが中西部出身でありながら東部のエリート社会に憧れを抱く姿や、語り手ニックが最終的に中西部に帰っていく結末のように、ニューヨークと中西部の分裂を見ることができる。
ディカプリオ主演の映画をご存じの方も多いと思うが、アメリカ文学を読んで見たいという方に真っ先におすすめしたい小説の一つがこの『グレート・ギャツビー』である。
アーネスト・ヘミングウェイ
フィッツジェラルドと同時期に活躍し始めたのがアーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Miller Hemingway, 1899-1961)であり、彼らは「失われた世代」(ロスト・ジェネレーション)と呼ばれる。ヘミングウェイは『老人と海』含む短編しか読んだことがないのだが、やはりその透徹した文体には比類ない魅力がある。
ヘミングウェイの『老人と海』のような、並外れて有名な作品については、このブログでその魅力を伝えたり考察を書いたりする意味をあまり感じないので、私的な読書感想文を書くことにしようと思う。私が『老人と海』という作品と出会ったのは、中学生[…]
南部ゴシック小説
また話が逸れてしまったので南北分断の話に戻ると、こうした背景で生まれたのが、「南部ゴシック小説」と呼ばれる小説である。「南部ゴシック小説」という言葉はかなり指す範囲が広いが、基本的にはアメリカ南部の没落した家系や歪んだ人間関係をゴシック的(=怪奇的・幻想的)に描いた小説を分類したもので、栄光への執着や、性的倒錯、暴力性などの特徴があるといわれる。
ウィリアム・フォークナー
南部ゴシック小説の代表的作家といえば、20世紀前半から中期に活躍したノーベル賞作家、ウィリアム・フォークナー(William Faulkner, 1897-1962)だろう。
フォークナーの作品は相当難解なので、初めてアメリカ文学を読むという方にはおすすめできないが、しかしながら最も「アメリカ的」な作品を楽しめる作家であることは間違いない。
フォークナーの作品群は「ヨクナパトーファ・サーガ」といわれるが、それはフォークナーがミシシッピ州の架空の郡「ヨクナパトーファ郡」を舞台に、南部の没落貴族や農民たちの物語を描き続けたからである。
フォークナーは短編もかなり多く残しているが、長編の代表作というと『八月の光』『響きと怒り』『アブサロム、アブサロム!』の3つが有名だと思う。過去に記事に書いたことがあるが、『響きと怒り』と『アブサロム』は特に難解であり、それゆえの中毒性がある。ちなみに『アブサロム』の中のとある一文は「文学における最長の文」としてギネスブックに認定されていたこともあるらしい。
8月中に読み終えたいと思っていた本をようやく読み終えた。それが、この本。1949年のノーベル文学賞を受賞したことでも知られる、アメリカ文学の大家ウィリアム・フォークナーの『八月の光』である。折しもBLM(Black Lives Ma[…]
読んでいて、あまりに理解が追い付かなくて笑ってしまった小説がある。「こんなのわからねーよ!」と、読んでいながらツッコんでしまうのである。その作品こそ、ノーベル文学賞作家ウィリアム・フォークナーの代表作『響きと怒り』である。だが、もち[…]
ハーパー・リー
また日本で比較的新しく翻訳が出た小説としては、ハーパー・リー(Harper Lee, 1926-2016)の『アラバマ物語』(1960年)が代表的な南部ゴシック小説として挙げられる。
ハーパー・リーの名は日本ではあまり知られていないだろうが、『アラバマ物語』はアメリカでは人種差別問題を扱った古典的名作として高く評価されている。
この作品1930年代のアラバマ州を舞台に、黒人男性の冤罪事件を通じて人種差別の実態を描いた作品で、1962年にはグレゴリー・ペック主演で映画化もされた。アメリカの学校では必読書として扱われることが多く、公民権運動の時代背景とも相まって、大きな社会的影響を与えた作品である。
以下の記事では旧訳に基づいて紹介をしているが、2023年に早川書房から上岡伸雄訳で単行本が出ており、入手しやすくなっている(すぐ絶版になるかもしれないが……)。
20世紀に書かれた最高のアメリカ文学は? というランキングで、たいてい上位に君臨するのは、ヘミングウェイやスタインベック、フィッツジェラルドなど日本でも馴染み深い作家の本である。だが、アメリカ人がこのようなランキングを作成すると、た[…]
トルーマン・カポーティ
余談だが『アラバマ物語』には、作中にディルという少年が登場するのだが、実はこのモデルはトルーマン・カポーティ(Truman Capote, 1924-1984)である。ハーパー・リーとカポーティは幼少期に交流があったのだ。
カポーティは幼少期を南部で過ごしており、実際に彼の初期の作品には、南部を舞台にした「南部ゴシック小説」に分類されるものも多い。
最も有名な『ティファニーで朝食を』(1958年)はニューヨークを舞台にしているが、実質的な主人公であるホリー・ゴライトリーは田舎からニューヨークに出てきた人物であり、そこには田舎と都市の対立が描かれている。
20世紀に書かれた最高のアメリカ文学は? というランキングで、たいてい上位に君臨するのは、ヘミングウェイやスタインベック、フィッツジェラルドなど日本でも馴染み深い作家の本である。だが、アメリカ人がこのようなランキングを作成すると、た[…]
しかし個人的には、カポーティの作家としての神髄は、「ノンフィクション・ノベル」の金字塔的な作品と評される『冷血』(1966年)に見られると思っている。
『冷血』は、1959年にカンザス州で実際に起きた一家殺害事件を題材に、犯人2人の心理を深く掘り下げた作品である。カポーティは徹底した取材に基づきながらも考察などを加えた文学作品を作り出し、ノンフィクション・ノベルというジャンルを作り出した。相当ヘビーな作品だが、ノンフィクションが好きな方、史実に基づいた小説が好き方はぜひ一度読んでみてほしい。
トルーマン・カポーティというと奔放な女性を描いた『ティファニーで朝食を』のイメージが強いが、ノンフィクション・ノベルという分野を開拓した小説家でもある。カポーティが「ノンフィクション・ノベル」という境地を開いた作品こそ、この『冷血』("In[…]
カーソン・マッカラーズ
また南部ゴシック小説として最近日本で文庫化された作品としては、カーソン・マッカラーズ(Carson McCullers, 1917-1967)の『心は孤独な狩人』(1940年)や『マッカラーズ短編集』が挙げられる。
『心は孤独な狩人』は、ジョージア州の小さな町を舞台にはぐれ者たちを描き、孤独と疎外感を鋭く描き出している。個人的に短編集の中で一番印象に残った作品は「悲しき酒場の歌」で、南部の閉鎖的な環境の中での三角関係を描いている。実社会からはぐれた人たちを描くというのは、マッカラーズ作品の特徴であり、南部ゴシック小説の一つの特徴でもある。
村上春樹とアメリカ文学
ちなみにマッカラーズは、ほんの数年前までは日本でも限られた読書好きにしか知られていなかった名前ではないかと思うが、村上春樹が『心は孤独な狩人』を訳出したことにより以前よりは有名になった(のではないかと思っている)。
良くも悪くも、戦間期から戦後のアメリカ文学を日本で読む場合、村上春樹は避けて通ることができない。村上春樹の翻訳や言及により、多くのアメリカ作家が日本の読者に紹介され、再評価されることになった。
リチャード・ブローティガン
村上春樹が影響を受けたとされるアメリカの小説家としては、そして1960年代のカウンターカルチャーを代表する作家と評されるリチャード・ブローティガン(Richard Brautigan, 1935-1984)などが挙げられる。
代表作『西瓜糖の日々』(1968年)では、ユートピア的な共同体を舞台に、愛と死をテーマにした幻想的な物語を展開した。これらの作品は、従来の小説の形式を破った断片的な構成と詩的な文体で知られている。
J.D.サリンジャー
また村上春樹自身が訳を手掛けた作家としてもっとも有名なのはJ.D.サリンジャー(J.D. Salinger, 1919-2010)だろう。『ライ麦畑でつかまえて』(1951年)は、現代でも共感する人も多い1950年代の青春文学の象徴的であるる。
『ライ麦畑でつかまえて』(キャッチャー・イン・ザ・ライ)についてはあまり説明はいらない気がするが、プレップスクールを退学になった16歳の少年ホールデンの一人称で語られる小説であり、大人社会の偽善に対する青年の反発と、純粋さを失うことへの恐怖を鋭く描き出している。ほかにサリンジャーの作品として『フラニーとズーイ』や、有名な「バナナフィッシュにうってつけの日」が収録されている短編集『ナイン・ストーリーズ』などがある。
ジョン・アーヴィング
ほかに村上春樹が翻訳を出している作家としては、第一作の『熊を放つ』を村上春樹が訳しているジョン・アーヴィング(John Irving, 1942- )が挙げられる。
アーヴィングは「19世紀以来の物語の復権」をテーマにした作家であり、実験的なポストモダニズム作品などに反対する立場をとり、力強い物語を創出している。読むのにかなりカロリーを使うので、筆者は『ホテル・ニューハンプシャー』しか読了したことがないのだが、ほかにも『ガープの世界』などの代表作がある。
ポール・オースター
アーヴィングの同世代の作家として挙げられるのが、ポール・オースター(Paul Auster, 1947-2024)であり、村上春樹も天才と評したという作家である。
オースターは実験的な作風で知られ、アーヴィングと違って非常に軽妙でおしゃれな小説を書く。代表作は「ニューヨーク三部作」と呼ばれる『ガラスの街』『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』と、『ムーン・パレス』だろうか。近いうちに記事を書いて追記したい。
チャールズ・ブコウスキー
また、村上春樹は翻訳していないが、村上春樹の盟友というべき翻訳家の柴田元幸が多くの名訳を出しているのが、チャールズ・ブコウスキー(Charles Bukowski, 1920-1994)である。
酒と競馬と女性を愛した無頼派で、柴田元幸はブコウスキーと初期の村上春樹には相似する点があると言っている(村上春樹は認めないかもしれないが)。代表作『パルプ』は異色の作品であるが、私の生涯でも最も好きな小説の一つである。ブコウスキー作品の中にはあまり面白くないものもあるが、まさにハマる人にはハマる、カルト作家と言える存在である。
酒と女と競馬ばっかり描いたチャールズ・ブコウスキーという作家がいる。要するに、くだらない小説をたくさん書いた作家だ。彼の代表作にして遺作『パルプ』も、そんな小説だ。手持ちのちくま文庫の帯には「最高にサイテーな傑作」と書いてあるが、まさに[…]
SFの隆盛
一方、村上春樹から離れてアメリカ文学を見てみると、やはり科学技術大国ならではのSFはアメリカ文学の特徴といえるだろう。
ヒューゴ―賞に象徴されるように、やはり世界一のSF大国はアメリカだと思う。アメリカ出身のSF作家としては次のような人物がいる。
レイ・ブラッドベリ
1954年にヒューゴ―賞を受賞した『華氏451度』などの著作があるレイ・ブラッドベリ(Ray Bradbury, 1920-2012)も重要な作家である。『華氏451度』とは本が燃える温度を指し、書物が焼かれる世界を描いたディストピア小説の古典と称される。
大袈裟な飛躍かもしれないが、図書館の廃止のニュースを見ると、人類の歴史の中で権力者によって本が弾圧されてきたことを連想する。秦の始皇帝は焚書坑儒として本を焼いて思想家を生き埋めにし、ナチス・ドイツも本を焼いてきた。本を焼くという行為は、自国[…]
ダニエル・キイス
『アルジャーノンに花束を』(1966年)という有名な著作があるダニエル・キイス(Daniel Keyes, 1927-2014)もここでは紹介したい。
『アルジャーノンに花束を』は、知的障害を持つ主人公チャーリィが、急に高い知能を得てーーという話だが、この話を読んで心が温まる人もいれば、心がうすら寒くなる人もいるという、感想が二分される小説といわれる(私はあまり心温まらなかった方である)。しばしばインターネット上の”教養”とされることもある小説で、読んだことのない方は興味があればぜひ読んでみてほしい。
ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』といえば、「知能を高めることが幸福なのか?」といった「幸福」について問うているSF作品としてや、ラストの場面に感動する心温まる作品として、また文学的には、主人公の「手記」という形をとることで、主人[…]
フィリップ・K・ディック
ほかにSFの大家として知られる小説家として、『高い城の男』(1962年)や『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1968年)、などが有名なフィリップ・K・ディック(Philip K. Dick, 1928-1982)がいる。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は小説のタイトルも有名だろうが、映画『ブレードランナー』の原作としても知られる。
今読んでも全く古くない、とは言いにくいところもあるが、SFの古典としてSF好きの方にはぜひ読んでみてほしい。
フィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は、1968年に刊行されたディストピアSFの傑作で、映画『ブレードランナー』の原作(というよりは原案)としても知られている。だが、この作品は、その題名は非常によく知[…]
フィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は、人間とアンドロイドの境界をテーマにし、多くの読者にその問いを投げかけた、SFの金字塔として知られている。さて、このブログでは、自己満足かもしれないが基本的に生成[…]
カート・ヴォネガット
またSFと純文学の融合とでもいうべき不思議な作品を残した作家として、カート・ヴォネガット(Kurt Vonnegut, 1922-2007)が挙げられる。
日本で一番有名なヴォネガットの作品は『タイタンの妖女』だろうか。この作品は爆笑問題・太田光のお気に入りとしても知られ、芸能事務所タイタンの名前の由来になった小説である。またヴォネガットは『スローターハウス5』で、第二次世界大戦のドレスデン爆撃を体験した主人公の時空を超えた体験を描き、戦争の不条理さをSFという手法で描いた小説家でもある。
ヴォネガットの作品は、純粋なSFではない。しかしSFのような形式を用いることで、独自の小説世界を作り出した唯一無二の小説家であり、興味を持った方はぜひ読んでみてほしい。
カート・ヴォネガット「タイタンの妖女」といえば、アメリカのSFの最高傑作のひとつともされる作品である。爆笑問題・太田光の最も愛する作品の一つとしても知られている。1959年の作品ということもあって、古さを感じる場面は多くある。しかし[…]
こういうと語弊を招くかもしれないが、私は戦争文学が好きである。戦争は絶対に繰り返してはいけないと思っているし、体験したくもない。しかし、だからこそ戦争に巻き込まれた人々の記憶は継承されるべきであると考えているし、文学作品に描[…]
カート・ヴォネガット「猫のゆりかご」について感想を記す。この「猫のゆりかご」を一読した当初は、正直なところあまりよくわからなかったと記憶している。だが、先日「タイタンの妖女」の感想を記したのをきっかけに再読し、この作品についてもだんだん理[…]
紹介できなかったアメリカ文学たち
ここまで偉そうにアメリカ文学の歴史を通史的に語ってきたが、この記事は私が実際に読んだ小説(一部読めていない小説も含んだが)を通史的に紹介しているだけなので、私が読んでいない小説は紹介できていない。
ソローなどの古典的な作家、スタインベックなどの20世紀を代表する作家、ピンチョンといった現代を代表する作家や、スティーブン・キングなどの小説については触れられていないが、一人の読書好きの感想として、参考にしていただけたら幸いです。
海外文学の良いところは、他国の歴史や文化を感じることができるところだ。日本の文学も好きだけれど、それぞれ違った良さがある。海外文学を読んでいるうちに、主要な海外文学を死ぬまでに読んでみたいという気持ちになってきた。だが、「海外文学は[…]
海外文学の名作といわれる作品には、長くて読み始めるのに勇気がいる作品が多い。でも、読んでみると日本の小説と違った面白さがある。今回は、文庫本一冊で読める、はじめて海外文学を読むという方にも遠慮なくお薦めできる海外文学を紹介したい。[…]