ベスギボンズ来日

【最速レビュー&セトリ】べス・ギボンズ来日2025.12.1-Portishead「トリップホップの女王」の現在地と素顔

2025年12月1日に行われたベス・ギボンズ(Beth Gibbons)の来日公演を見た。

ベス・ギボンズといえば、1990年代にトリップホップというジャンルを定義したポーティスヘッド(Portishead)のボーカリストとして知られる。彼女は2024年、デビュー30年目にして実質的に初のソロ・アルバム『Lives Outgrown』をリリースした。今回の来日公演は、このアルバムを携えた初のソロ・ツアーの一環で、12月1日と2日の2日間すみだトリフォニーホールで、3日にZepp Nambaで行われた。今回、12月1日の公演を見に行ったので、この記事ではそのセットリストおよび感想を記す。

ベスギボンズ来日

ベス・ギボンズ来日 セットリスト

はじめに、今回のセットリストを紹介する。

新譜『Lives Outgrown』の全曲と、2002年のRustin Manとのアルバム『Out of Season』から2曲(「Mysteries (1)」と「Tom The Model」)、そしてPortisheadの『Dummy』から2曲(「Roads」と「Glory Box」)という、全14曲だった。

※自力で書き出しているので、間違っていてもご容赦いただきたい。

1. TELL ME WHO YOU ARE TODAY
2. BURDEN OF LIFE
3. FLOATING ON A MOMENT
4. REWIND
5. FOR SALE
6. MYSTERIES (1)

MC

7. LOST CHANGES
8. OCEANS
9. TOM THE MODEL
10. BEYOND THE SUN
11. WHISPERING LIFE

ENCORE

12. ROADS
13. GLORY BOX
14. REACHING OUT

ベス・ギボンズという生きる伝説を見る

このページをわざわざ見に来てくれた方には不要な紹介かとは思うが、本題に入る前に、ベス・ギボンズ、そしてポーティスヘッドというバンドについて触れておきたい。

ベス・ギボンズは、作曲担当のジェフ・バーロウとともにポーティスヘッドを結成した人物である。

ポーティスヘッドは、先述の通りトリップホップと呼ばれるジャンルの先駆者であり、個人的な意見ではイギリスのレディオヘッドなどに代表されるようないわゆる「鬱バンド」の頂点に君臨するバンドである。その代表作であり金字塔的なアルバムが、デビューアルバムの『Dummy』である。ポーティスヘッドは2ndアルバム『Portishead』と3rdアルバム『3rd』というアルバムもあり、進化したサウンドを楽しむことができるのだが、やはり彼らのベストは『Dummy』だろう。

もちろジェフ・バーロウもすごいのだが、『Dummy』を歴史的な名盤たらしめているのは、ベス・ギボンズの圧倒的なボーカルである。繊細でか細く聞こえることもありつつも力強いという、矛盾した2つの性格を同居させることのできる唯一無二のボーカリストが彼女なのだ。

ちなみに余談だが、音楽ファンの間では「○○ヘッドという名前のバンドに外れはない」と言われることがあるが、ポーティスヘッドはレディオヘッド、トーキングヘッズと並ぶ「3大ヘッド」といえる。

ポーティスヘッドは、レディオヘッドが『Kid A』(2000年)以降にエレクトロニカへと接近し、ロックバンドの枠を超えた実験的な音楽を奏でるようになる前から、すでにその先を行っていたバンドだったといえる。また今回のベス・ギボンズのソロアルバム『Lives Outgrown』では、印象的な打楽器の使用が際立っているが、これはトーキング・ヘッズを彷彿とさせる要素かもしれず、くしくも「ヘッド」の名を冠するバンドに共通する遺伝子のようなものを感じた(もっともポーティスヘッドのバンド名は、ジェフ・バーロウが育った田舎町ポーティスヘッドに由来し、トーキング・ヘッズとは関係ない)。

2025年12月1日 ベス・ギボンズ来日感想

前置きが長くなったが、ここからはベス・ギボンズの来日公演の感想を書いていきたい。

会場の雰囲気

会場のすみだトリフォニーホールは、クラシック音楽のコンサートも数多く開催される、音響に定評のある会場である。

客層は外国人の姿も目立っていたが、意外と幅広く、若い世代のリスナーもいればポーティスヘッドのデビュー当時からのファンと思しき年配の方々もいた。完売ではなかったので入りを少し心配していたが、会場はほぼ埋まっていた

ステージセットで印象的だったのは、青を基調とした照明である。『Dummy』のアルバムジャケットを想起させるもので、開演前に雰囲気に没入できた。(※開演後は、曲に合わせて照明の色は変わったが、やはり青が基調だったと思う)

すみだトリフォニーホール ベス・ギボンズ来日公演
ベス・ギボンズ来日公演 開演前の様子 ©不眠の子守唄

セットリストと『Lives Outgrown』の凄さ

先述の通り、セットリストは、新作『Lives Outgrown』から全曲が演奏され、アンコールではポーティスヘッドの代表曲である「Roads」と「Glory Box」の2曲が披露された。また、2002年のアルバム『Out of Season』からも2曲が選ばれていた。

今回、何よりも印象的だったのは、やはり『Lives Outgrown』という作品そのものの完成度の高さである。

『Lives Outgrown』は紛れもなく名盤であり、今回の来日のニュースでベス・ギボンズに興味を持ったという方もぜひ聴いてほしい。ポーティスヘッドとは違い、アコースティックな楽器を基調にサウンドとしてはフォーク的な要素の強いアルバムだが、美しいメロディとベス・ギボンズの圧倒的なボーカルが体感できる

『Lives Outgrown』は日本語にすれば「成長しきった人生」とでも訳せるだろうか。このアルバムは、当時59歳のベス・ギボンズが、老いと向き合い、人生の黄昏を見つめながら紡いだ作品である。「Floating on a Moment」をはじめとする収録曲は、彼女の「いまの人生」について歌っている。ライブでこれらの曲を聴くことで、ベス・ギボンズの現在を体感できたことは、今回の公演の最大の収穫だった。

Portisheadの名曲を聴く

しかし、正直に言えば、会場が最も大きく沸いたのは、アンコールで演奏された「Roads」と「Glory Box」の2曲だった。

アンコールで「Roads」のイントロが流れた瞬間、今日一番の歓声が上がった。

新曲が演奏されている時よりも、30年前の楽曲が演奏された時の方が盛り上がるというのはアーティストにとって複雑なのではないかとも思ったが、ポーティスヘッドの楽曲を30年間聴き続けてきた人々にとって、「Roads」や「Glory Box」は人生の一部と言っても過言ではないということを考えれば、それは当然かもしれない。私自身、年齢的にリアルタイムでは聴いていないものの、10年はポーティスヘッドを聴いている。10年間聴き続けてきた曲を、ここで生で聴く──その感動は、やはり新曲とは異なる特別なものがあった。

ベス・ギボンズという人物の素顔

ちなみにベス・ギボンズは、ほとんどメディアに登場しない人物として知られている。『Dummy』の頃のプロモーションで疲弊してしまったせいで、インタビュー取材はすべて断っており、彼女の人柄は謎に包まれている。

しかし今回のライブでは、短いMCではあったが、彼女の人となりを垣間見ることができた。ベス・ギボンズがそもそも数語しか発していないのと、観客の歓声で言葉がかき消されてしまったので何を言っていたのかは聞き取れなかったが、ライブ中には一度だけ「MYSTERIES (1)」の終了時にMCがあって、彼女が手を振ったり笑顔を観客に向けるさまを見ることができた(観客から「ベス~!」という野太い声が飛んでいた)。そしてメインセット終了時には日本語で「ありがとう」と言ってくれた

音楽的には孤高の存在であるベス・ギボンズが、終演後にはでは親しみやすく、チャーミングな「かわいい」一面を見せてくれた。この意外性はライブならではの発見で、アーティストを生で見ることの醍醐味の一つであり、個人的に嬉しかった部分である。

ベス・ギボンズ
終演後、笑顔のベス・ギボンズ。着物を着てくれたパーカッション担当の男性もかわいい。 ©不眠の子守唄

おわりに

最後に、やはり何より、ベス・ギボンズの歌唱は圧巻だった。声量や歌唱力という意味ではもっと上はいるのだろうが、彼女の声なくしてポーティスヘッドの楽曲も『Lives Outgrown』の名曲も成立しない。ベス・ギボンズの唯一無二の歌声を聞くことができたことは、一生の思い出になった。

ぜひ興味のある方は『Lives Outgrown』を。もし聴いたことがない方は『Dummy』を聴いてみてほしい。

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このブログは管理人が実際に読んだ本や聴いた音楽、見た映像作品について書いています。AI全盛の時代ですが、生身の感想をお届けできればと思っています。