マンオンザムーン

【感想・考察】映画『マン・オン・ザ・ムーン』ジム・キャリー演じる虚構と現実の混沌《ラストの解釈》

私はこのブログでも何度か書いているように、アメリカのロックバンドの中で最も好きなバンドの一つが、R.E.M.というバンドである。彼らの曲の中でも1、2を争う名曲と評価されているのが「Man on the Moon」という曲である。そして、この曲と同じタイトルの映画が『マン・オン・ザ・ムーン』だ。

後述するが、「Man on the Moon」という曲は、1984年に35歳で亡くなったアンディ・カウフマンというコメディアンを歌ったものである。そしてアンディ・カウフマンの伝記映画が『マン・オン・ザ・ムーン』であり、ジム・キャリーが演じている。

この映画は映画自体の知名度はそこまで高くなく、私も最初はR.E.M.が曲を担当しているジム・キャリーの映画、というくらいの印象だった。しかし、この映画を実際に見てみると、非常に印象に残る傑作だった。というわけで、今回はこの映画について書いていきたい。

『マン・オン・ザ・ムーン』概要

『マン・オン・ザ・ムーン』とはどのような映画か

『マン・オン・ザ・ムーン』は1999年に公開された映画であり、監督は『アマデウス』などで知られるミロス・フォアマン、主演はジム・キャリーである。ジム・キャリーの演技は絶賛され、前年の『トゥルーマン・ショー』に続き、2年連続でゴールデングローブ賞主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞することになった。

また、この映画のタイトルのもととなったのは先述のR.E.M.による曲「Man on the Moon」だが、この映画自体もR.E.M.が音楽を担当しており、新たに「The Great Beyond」という曲も書き下ろされている。この曲はグラミー賞にノミネートされるなど高く評価され、バンドの曲の中でも大きなヒットとなった。(しかし、この映画は批評的にはそれなりに成功をおさめたが、興行的にはそこまで成功しなかったことは補足しておく)

「Man on the Moon」という曲は、1984年に35歳で亡くなったアンディ・カウフマンというコメディアンのことを歌ったものである。なぜこのコメディアンを歌った曲が「Man on the Moon(月の上の男)」なのか。映画の本題と逸れるが、これはアポロ計画の月面着陸にまつわる陰謀論と関係している。

アポロ計画については「実際には人類は月に行っていないのではないか」という陰謀論が根強く存在する。R.E.M.の曲は、この月面着陸の真偽と、アンディ・カウフマンという人物を重ね合わせて歌っているのだ。カウフマンは非常に悪趣味なコメディアンとしても知られ、壮大なヤラセを仕掛ける人物だった。たとえば、本当は親友であるプロレスラーと大喧嘩をして抗争を演じ、テレビの視聴者を完全に騙していた。そうした経歴もあって、彼が35歳で希少ながんによって亡くなった時、直前まで人前に姿を現していたこともあり、「彼の死もヤラセなのではないか」という説が根強くあったのだ。

あまり「マン・オン・ザ・ムーン」というR.E.M.の曲のことについて長々と解説しても本題と逸れるが、たとえばこの曲のサビの部分には、以下のような歌詞が登場する。

If you believed they put a man on the moon
Man on the moon
If you believe there’s nothing up his sleeve
Then nothing is cool

この曲は多義的な解釈が存在するが、私が訳すとしたら、「もし君が、彼ら(they=政府)が月に人を送ったと信じるのなら、月に人はいたんだろう。でも、もし君が、彼の(his=アンディの)袖に何もないと信じるのなら、それはつまらない」というようになる。

「there’s nothing up his sleeve(アンディの袖になにもない(タネも仕掛けもない)=アンディが本当に死んでしまった)」のであれば、それはcoolじゃない(つまらない)と言って、アンディに対し「ねえ、ほんとうに死んでしまったの?」と死を悼んでいるのである。(ただ、重ねて言うようにこれは一つの解釈に過ぎない)

『マン・オン・ザ・ムーン』あらすじ

前置き長くなったが、この映画のあらすじを紹介したい。この作品はアンディ・カウフマンの生涯を描いた映画である。

この映画は入れ子構造として、アンディ・カウフマン本人(を演じるジム・キャリー)が登場し、「僕の映画を見てよ」と語りかける。そこから少年時代の回想が始まる。アンディは、架空のテレビ番組を一人で演じるのが好きな少年だった。そして成長したカウフマンはコメディアンになる。

しかし、そこで見せる芸は風変わりな物ばかりだった。たとえば、訛りのある弱々しい英語を喋る外国人の男を演じた後、徐々に力強いエルヴィス・プレスリーの物真似へと変化し、最後にまた弱々しい男に戻るという芸を見せる。この芸は人気があったが、一方で、フィッツジェラルドの小説『グレート・ギャツビー』をひたすら朗読するという、およそ観客を笑わせる気がないと思われるようなパフォーマンスをすることもあった。こうした芸をすると観客からひどいブーイングを浴びるが、アンディは意に介さない。またアンディは、「トニー・クリフトン」という歌手のキャラクターを演じ別人のように振舞うという、一人二役的な活動も行っていた。

紆余曲折を経て、カウフマンはテレビへの出演機会を得ていく。ただ、テレビ出演は彼が本来やりたかったことではなく、テレビ局としばしば揉めることもあった。

やがてカウフマンはプロレスに興味を持つようになる。ただし彼の体格では男性プロレスラーには勝てない。そこで彼は女性を相手に戦うことを選ぶ。女性を侮辱するような発言をして、それに抗議する女性観客と戦い、勝つという、悪趣味な芸を披露する。

映画では、カウフマンは、女性を罵倒する発言に怒った女性観客と戦う。だが試合の後、カウフマンは彼女に「これはヤラセなんだ」と打ち明け、それがきっかけで二人は交際に発展する。

なお余談だが、このガールフレンドであるリン・マーグリスを演じるのがコートニー・ラヴ。洋楽好きには有名な話だが、彼女はニルヴァーナのカート・コバーンの妻である。そしてカートはこの映画が公開される5年前に、R.E.M.の「Man on the Moon」が収録されたアルバム『Automatic for the People』のレコードを聴きながら自殺しており、運命的なものを感じる。ただし、コートニー・ラヴがこの映画に出演したのは、フォアマン監督の信頼関係(1996年の映画『ラリー・フリント』に出演している)によるものだという。


だが、アンディは次第に虚構と現実の区別がつかなくなっていく。リンとの関係も、過度なヤラセに彼女を巻き込んだことで危機に陥る場面もある(この場面は非常に緊迫する)。この映画で特筆すべきは、観客も「虚構と現実」がどちらなのかだんだん分からなくなっていくところである

だが、史実通りカウフマンは肺がんと診断される。だが、カウフマンが肺がんと診断された時、家族もビジネスパートナーも信じないのだ。ビジネスパートナーからは、カウフマンが新たなショーの設定を思いついたのだと思い、「がんであるという設定は、さすがに趣味が悪いのではないか」とか「もしかしたらいい考えかもしれない」といった反応が最初に出てくる。家族ですら、アンディが本当にがんなのか、それともヤラセで嘘の告知をしているのか、わからないのである。

しかしアンディの身体は病魔にむしばまれていく。アンディは祈祷のような怪しい医療に手を出すなど、生きる望みを持ち続けながらも、最後に自分が本当にやりたかった心温まるショーを行う。

『マン・オン・ザ・ムーン』感想・考察

先ほど書いた通り、この映画の見どころの一つは、アンディが作り出す「虚構と現実」に観客たちも巻き込まれていくところである。この種の緊迫感を観客に与えることに成功しているという点で、『マン・オン・ザ・ムーン』という映画は高く評価されるべき作品だと思う。そしてこの映画が混沌に観客を引き込むことに成功しているのは、主演のジム・キャリーの憑依したような演技だろう

ジム・キャリーの演技

ジム・キャリーの演技の素晴らしさは映画を見ていればわかると思うが、本当にアンディ・カウフマンというコメディアンが映画の中にいると思ってしまう。

ちなみに、映画公開から20年弱の時を経た2017年に、この映画の舞台裏を収めたドキュメンタリーが、Netflixで公開されている

この『ジム&アンディ』というドキュメンタリーを見ると、ジム・キャリーが本当にアンディ・カウフマンに没入していることがわかる。アンディ・カウフマンは迷惑で悪趣味な一面を持つコメディアンでもあった(特に「トニー・クリフトン」を演じているときなど)。ジム・キャリーは本当にアンディおよびトニーなりきってしまったため、スタッフや共演者に絡んだりして煙たがられることもあり、まさにそういったシーンが映し出されている。一方で、アンディ・カウフマンの家族からは「本当にアンディがいるようだ」と感動されたという。このシーンもこのドキュメンタリーに収められている。

ジム・キャリーの演技という点でも『マン・オン・ザ・ムーン』はぜひ見てほしい映画である。

なお、主演のジム・キャリーといえば本作の前年に公開された『トゥルーマン・ショー』が有名だが、この映画はトゥルーマンという青年の人生がすべてリアリティショーだったという物語である。現実とヤラセのどちらなのか周囲がわからなくなっていくというテーマは、『マン・オン・ザ・ムーン』にも通じるものがある。

『マン・オン・ザ・ムーン』のテーマ

ここまで書いてきたように、『マン・オン・ザ・ムーン』という映画は、現実と虚構の混沌に観客が巻き込まれるという面白さのある作品だが、この映画の結末のテーマについて最後に考察したい。

完全にラストのネタバレになるが、肺がんになったアンディは、最後に奇跡が起きるのではないかという一縷の望みを託してフィリピンに向かう。フィリピンには、魔法の手でがんを取り除いてくれる人物がいるという。その奇跡に賭けるのである。

だが当然、それはインチキだった

その「奇跡を起こす」という人物は、周囲から見ると本当に患部から血の塊や肉の塊を抜き取っているように見える施術を行う。しかしカウフマンは自分が施術を受ける番になった時、それが完全に偽物であることに気づく。「奇跡を起こす」という人物は、血が染み込んだ綿のようなものを予め手の中に入れておき、それを用いてあたかも体内から腫瘍を取り除いたかのように見せているだけだったのだ。

映画では、この似非医療を行う人物のショットに、金の時計がはめられた手が映し出される。おそらく高価な金時計なのだろう。彼は、似非医療によって金儲けをしている人間なのである。アンディは人生の最後になって、ヤラセに完全に騙されていたことに気づくのだ。

これは非常に悲しいラストである。この映画のテーマとして、このシーンをどう捉えるかは重要だろう。アンディにとって「ヤラセ」とは何だったのか。もしこの映画のプロットが、アンディが似非医療に気づく→最後のショーを行うという順番であれば、わかりやすいものだったと思う。しかし実際のプロットはそうではない。

では彼は死の床で「ヤラセはすべて悪いものだった」という結論に至ったのか。それは違うだろう。月並みな言い方になるが、アンディは似非医療に騙されたことで「良いヤラセ」と「悪いヤラセ」があったことに気づいたと思う。だが、アンディは残された時間で何をできたのだろうか。劇中では似非医療のシーンの直後にアンディが死亡してしまうが、実は一つだけ、アンディが似非医療に騙された後に作ったと思われるパフォーマンスが存在する。

それは、この映画そのものである。先に記した通り、『マン・オン・ザ・ムーン』という映画は入れ子構造になっている。アンディは(もちろんこの映画中の話ではあるが)、自分が命を落とした後に観客に見てもらうためにこの映画を作った。だからこの構造は必然なのだ。作中には“入れ子構造の外”のアンディが映画冒頭とラストで登場するが、このアンディが発する言葉こそ、アンディの本当の遺言なのである。

おわりに

先述の通り、この映画が興行的にはあまり成功しなかったのは、この作品がわかりやすいハッピーエンドではないからだろう。たとえばクイーンのフレディ・マーキュリーを描いた『ボヘミアン・ラプソディ』は大ヒットしたが、この映画はフレディがスターダムを駆け上ったのちに自分を見失い、その中でエイズであることを自覚し、残り少ない人生でどういうパフォーマンスをするかということに目覚める物語だった。パフォーマーが病に気づき、残りの人生をどう生きるかという点では『ボヘミアン・ラプソディ』と『マン・オン・ザ・ムーン』は似ている。しかし、結末の分かりやすさは異なる。もちろん、この2本の映画を単純に比較することはできないが、『マン・オン・ザ・ムーン』という映画が興行的に成功しなかった理由は、その入れ子構造やラストの解釈の難しさかもしれない。

もちろん、私がここで記した解釈は一つの解釈に過ぎない。ただ、ぜひ『マン・オン・ザ・ムーン』という映画に興味を持った方は、この映画を見てみてほしい。ジム・キャリーの演技だけでも、間違いなく一度見る価値がある映画である

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