スピルバーグ『シンドラーのリスト』が傑作である理由【あらすじ・感想】

シンドラーのリスト

大学に入ってから、戦争映画だけはちゃんと観ようと思い立ち、以来観る映画の半分以上が戦争映画になった。

純粋なドキュメンタリーも観るが、実話をもとにしたフィクションも観る。中でも印象的だったのは、スティーヴン・スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』である。

アマゾンプライムでも観ることができるので、戦争を描いた映画に興味がある人はぜひ一度この名作を観てほしいと思う。

シンドラーのリスト(字幕版)

『シンドラーのリスト』が描き出すもの

『シンドラーのリスト』あらすじ

『シンドラーのリスト』のあらすじを簡単に紹介すると、次のようになる。

物語の舞台は1939年、ドイツ軍によって占領された第二次世界大戦下のポーランドの都市・クラクフである。占領下のクラクフでは、ユダヤ人たちはゲットー(ユダヤ人居住区)の中での生活を強いられることになる。

そんな中、ナチ党員でもあるドイツ人実業家オスカー・シンドラーが、戦争を利用して金儲けをしようとクラクフの街にやってくる。

彼は破産した工場を買い取り、軍需品を生産する琺瑯(ホーロー)工場を開設する。有能なユダヤ人会計士イザック・シュターンに工場の経営を任せ、ユダヤ人を安価な労働力として使役し、またドイツ軍将校に取り入ることで利益を拡大させてゆく。

しかし、やがてユダヤ人を取り巻く状況も変化していく。ドイツ軍将校アーモン・ゲートがクラクフに赴任すると、ユダヤ人は次々殺戮されていく。当初は金儲けのためにユダヤ人を雇っていたシンドラーだったが、次第にユダヤ人に対する感情に変化が起きていく……

ユダヤ人を襲う残酷な現実

『シンドラーのリスト』はドキュメンタリーではないので、もちろん脚色や潤色はあるのだが、概ね史実をもとにした作品である。

『シンドラーのリスト』を観て印象的だったのは、当時の証言として活字では読んだことがあるようなエピソードが、映像化されていたことである。

  • ハンナ・アーレントが『エルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告』で書いたように、ユダヤ人によって組織されているはずのユダヤ人評議会が、効率的にユダヤ人を「選別」し、結果的にホロコーストを助長したこと。
    ――ただし、ユダヤ人評議会の中でも、シュターンは自分の職務を弱者の救済のために使用した。
  • ゲットーが急襲された際に、隠しスペースに身を隠す人々。
    ――アンネ・フランクの父オットー・フランクが、招集命令を受ける前に隠れ家を準備していたように。
  • 自分の血を頬紅代わりにして、健康的に見せようとする女性たち。そして、裸にされて身体検査されるユダヤ人たち。
    ――健康に見えなければ、労働不能として早晩ガス室送りにされるのである。
  • ユダヤ人の中に飛び交うアウシュヴィッツの噂。髪を刈られるユダヤ人たち。そして、「ガス室」(シャワー室)に入れられた女性たちのパニック。

『シンドラーのリスト』は、このような描写を遠慮なく映像で描いたという点で、ドキュメンタリーに準じた観る価値を有していると思うのである。

演技といったらそれまでである。だが、この映画のロケ地は実際のクラクフの街であり、実際に迫害から生き延びたユダヤ人たちが出演している映画である。そして、これらの行動も証言に基づいたという点ではフィクションではない。

映画だが、映画といわせないような再現度は、『シンドラーのリスト』傑作たらしめている。

『シンドラーのリスト』映像と音楽

『シンドラーのリスト』では、虐殺(銃殺)シーンも躊躇なく描かれるが、だからといってグロテスクに仕上がっているわけではない。

ご存知の方も多いと思うが、この作品は基本的にモノクロである。

「歴史を描いた作品はモノクロの方がいい」という考えによるものだという。モノクロで描かれた方が、説得力が増すとスピルバーグは考えた。

モノクロであるがゆえに、私たちはこの映画の描写から目を背けなくて済んでいる面はあるかもしれない。

そして、モノクロにはカラーにはない独特の陰影の美しさがある。

また、そもそもこの映画は映像が美しいことに尽きるのだが、ジョン・ウィリアムスの音楽も素晴らしい。『暗い日曜日』などの挿入曲も、素晴らしい。

単純に「映画という世界」に入り込みたい人にも、おすすめできる作品である。

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『シンドラーのリスト』への批判

とはいえ、『シンドラーのリスト』にはまったく批判がないわけではない。

ユダヤ陰謀論的な批判には私は一切関心がないが(この作品では多少善悪が二項対立過ぎる面はあるが)、次のような批判はありえるだろう。

この作品で少し物足りない点を強いて挙げるとすれば、主人公オスカー・シンドラーの内面の描写なのではないかと思う。

シンドラーの行動原理は、はじめは利潤追求であったが、次第にユダヤ人保護へと変わっていく。

この変化にはグラデーションがあり、「利潤追求」イコール「ユダヤ人保護」であった時期もあった。シンドラーにとって、ユダヤ人会計士シュターンの身代が「利潤追求」のために何よりも重要であったのは、その一例である。

このような思想の変化は、ある程度しっかりと段階を踏んで描かれている。

そして色々な経験を経て、最終的にシンドラーは、利益を度外視してユダヤ人を保護することになる。

さらにシンドラーがユダヤ人を保護するのみならず、次第に強烈な反戦思想を持つ人物へと変容する。しかし、この理由は、作中で十分に描かれていないように思う。

もちろん、シンドラーが反戦的活動を始めたのは、実際の証言に基づいた描写である。しかしながら、物語の流れとしては飛躍を感じた。

だが、若干の飛躍を感じたとしても、鑑賞していると感動できるものである。ラストのシーンも、少し飛躍と大袈裟さを感じる面はあるのだが、それでも私は目から涙を流してしまった。

おわりに

最後にひとつだけ批判をしたが、確実に言えるのは、この作品をすべての面で超える戦争映画は、今後作られることはないであろうということである。

記事中で何度か「この映画はドキュメンタリーではない」と書いたが、実は『シンドラーのリスト』は、ラストの場面で現代に時代が移り、ドキュメンタリーとなる。

実際にオスカー・シンドラーによって救出されたユダヤ人たちが、シンドラーの墓に参列する場面が流れるのである。『シンドラーのリスト』の劇中に登場したユダヤ人たちの役名は、実際にシンドラーに救われて戦争を生き延びたユダヤ人たちの本名であることが明かされるのである。

『シンドラーのリスト』が公開された1993年から、30年近い月日が経とうとしている。今では、おそらく多くの人々が物故してしまっているだろう。第二次世界大戦を生き延びた人々本人が登場するリアリティは、これから作られる映画では再現することはできないだろう。

『シンドラーのリスト』の字幕版は、記事公開日時点でAmazon Prime Videoでも観れる。

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↓この映画は、実際の第一次世界大戦の画像を着色したドキュメンタリー映画。