トーキング・ヘッズ『ストップ・メイキング・センス』は何がすごいのか【全曲感想】

ものすごく今更だが、Talking Heads(トーキング・ヘッズ)のライブ映画『ストップ・メイキング・センス』ーー“Stop Making Sense”ーーがAmazon Prime Videoで配信されていることに気づいたので、この映像作品について書いていこうと思う。

この映画は、1984年に初公開されたものだが、40周年にあたる2024年に4Kレストアがほどこされ、日本でも劇場公開された。オリジナルフィルムの発掘をしたのは、今や映画好きに知らぬものはいない映画スタジオ・A24。音響はトーキング・ヘッズのメンバーであるジェリー・ハリスンが監修している。

私は基本的に同じ映画を二度見ない性質だが、この映画は2024年に唯一私が2回映画館で見た映画だった(もっとも、ライブ映画を映画といっていいのかは謎だが)。

 

『ストップ・メイキング・センス』は、しばしば史上最高のライブドキュメンタリーと言われる。私もここ何年かで、オアシスのネブワースや、ビートルズのゲットバックなど、ある程度の数のライブ映画を見てきたが、やはり「ライブドキュメンタリー」単体としては、この『ストップ・メイキング・センス』が最も優れた映画だと思う。

監督は、のちに『羊たちの沈黙』でアカデミー監督賞を受賞することになるジョナサン・デミ。当時の世界最高のセンスの持ち主たちが作ったものは、40年の時が経っても色あせないのだろう。

だが、この映画が素晴らしいのは、音楽だけでなく視覚的にも観客を楽しませることを最初から想定しているライブだからである。

具体的に言えば、全曲に違った視覚的な工夫が凝らされているのだ。今回は、この映画作品のそれぞれの曲について紹介したい。

CD版の『Stop Making Sense』

「Stop Making Sense」全曲紹介

1. 「Psycho Killer」

バンドのフロントマンであるデヴィッド・バーンが、ギターとカセットプレーヤーをを持って一人でステージに登場する。

“Hi. I’ve got a tape I want to play,”

「やあ、テープを持って来た」

足元に置かれたテープレコーダーから流れるのは、ローランドの名器TR-808(らしい)のビート。それに合わせてバーンはアコースティックギターを打ち鳴らし、「サイコ・キラー」を演奏する。デビューアルバム『Talking Heads: 77』(邦題はまさに『サイコ・キラー’77』である)に収録されている代表曲である。

曲の最後のバーンの「神経症的」と言われるアクションも注目。

個人的な偏見だが、デヴィッド・バーンは日本でいう坂本龍一がピアノではなくギターを手にボーカルもしているような存在だと思っている。(なぜ、坂本龍一を連想するのかというと、新しい時代を創った伝説的なバンドのメインメンバーであることと、バーンは映画『ラストエンペラー』(1987)の音楽を坂本龍一とコン・スーとともに手掛け、第59回アカデミー賞で作曲賞を受賞しているからだと思う)

デヴィッド・バーンのボーカリスト、ギタリストとしての傑出した才能を感じられるパフォーマンスである。

▼スタジオ音源

2. 「Heaven」

ベースのティナ・ウェイマス(女性)が加わり、デュエットに。

2人が「Heaven」を演奏しているあいだに、ドラムセットなどが運び込まれる。黒衣のスタッフが演奏中に堂々と機材を運び入れたりするのは、日本の伝統芸能が影響を与えているらしい。

そのことは当時からメンバーが明かしていたようだが、『ストップ・メイキング・センス』がレストアされた際、『POPYE』にトーキング・ヘッズのメンバーのインタビューが載っているのだが(取材に成功したポパイもすごい…)、この場でも改めて語られている。

デイヴィッド あと、日本の伝統芸能に関しては、もうひとつ驚いたことがある。それは歌舞伎で役者の衣装替えをする人や、文楽で人形を操る人の手を、隠さず観客に見せてしまうところ。西洋の人形劇では、操る人たちをパネルなんかの後ろに隠すのが一般的なんだ。でも、日本の場合は、意図的にそれを見せてしまうし、彼らが場違いな動きをしない限り、観客の気が散ることもないんだと知った。ショーの冒頭で、がらんどうの舞台に装置を作る人々を見せたのは、それにインスピレーションを受けたからなんだ。

出典:Mr.デイヴィッド・バーン、もう一度、『ストップ・メイキング・センス』の話を聞かせてください。

3. 「Thank You for Sending Me an Angel」

運び込まれたドラムセットに、ドラムのクリス・フランツ(ベースのティナ・ウェイマスの夫でもある)が飛び乗る。

3人体制になり、サウンドにもステージ上の動きにも活気が生まれる。

4. 「Found a Job」

ギターのジェリー・ハリスンが加わり、これでバンドのオリジナルメンバー4人が出そろう。

トーキング・ヘッズというバンドは、デヴィッド・バーンとクリス・フランツの2人が最初にいて、ティナ・ウェイマスが、そしてジェリー・ハリスンが加わってできた。順番は異なるが、1人ずつ人が増えていくというのは、バンドの成立とも重なり合う。

この演奏のあいだにもどんどんセットが組まれていく。

5. 「Slippery People」

パーカッション担当のスティーヴ・スケールズと、バックコーラスのリン・メイブリーエドナ・ホルトが登場。バックコーラスの黒人女性2人が加わったことで、より動きが生まれる。

6. 「Burning Down the House」

ライブ前半のハイライト。キーボーディストのバーニー・ウォーレル、ギタリストのアレックス・ウィアーが加わり、これでフルバンドが出そろう。

7. 「Life During Wartime」

ライブ前半のハイライト②。

視覚的にも音楽的にも一番印象に残ったのはこの曲だったかもしれない。

デヴィッド・バーンがステージ上を走り回るのが印象的。

この曲が終わったタイミングで、バーンが「何か質問はある?」と観客に向かって叫び、一度暗転。(実際のライブではMCがあったのだろうか?)

▼スタジオ音源(個人的にはストップ・メイキング・センスの音源のほうがいいと思う)

8. 「Making Flippy Floppy」

デヴィッド・バーンの髪型がオールバックに変化。ファンクっぽいビートが特徴の一曲。

「DRUGS」「SANDWICH」「PIG」などの単語がステージの背景に映し出され、視覚的な演出が際立つ。

9. 「Swamp」

デヴィッド・バーンの俳優的なパフォーマンスが光る一曲。

この曲は悪魔について語っいぇいるのだが、バーンの表情や歌い方、動きも他の曲では見せない、「悪魔的」なものになっている。ライティングもダークな雰囲気になり、バーンの顔の陰影も際立つ。

10. 「What a Day That Was」

トーキング・ヘッズとして演奏されているが、実はこの曲はデヴィッド・バーンのソロ曲である。

暗い照明は前の曲から変わらないが、デヴィッド・バーンがいつの間にかオールバックでなくなっている(オールバックから前髪を無造作におろした感じに)。

コーラスなど、デヴィッド・バーンのスタジオ音源より断然いい。

11. 「This Must Be the Place (Naive Melody)」

Home is where I want to be
Pick me up and turn me round

家、それは僕が帰りたいところ
僕を迎えに来て、僕を振り向かせてくれない?

という歌詞の通り、ステージ上にランプが設置され、家をイメージしたセットに。

メンバー間の距離も近く、ライトを使ったデヴィッド・バーンの動きも、みんなで肩を寄せ合って歌うのも良い。

12. 「Once in a Lifetime」

ライブ後半のハイライト①。

デヴィッド・バーンがメガネをかける。この曲のバーンのパフォーマンスも見どころ。

ジョナサン・デミはロングカットを多用する監督だが、この曲は曲の開始から最後のコーラスでカットが切り替わるまでワンカットで撮られている。

▼MV(スタジオ音源)映画の中のパフォーマンスの方がかっこいい

13. 「Genius of Love」

トーキング・ヘッズのライブをいったん中断し、ティナ・ウェイマスとクリス・フランツによるサイドプロジェクト、トム・トム・クラブのパフォーマンスが始まる。

ティナ・ウェイマスがボーカルで、雰囲気が一変。正銘の雰囲気も変わる。

14. 「Girlfriend Is Better」

ライブ後半のハイライト②。

デヴィッド・バーンが再登場。デヴィッド・バーンのシルエットが最初に映し出されるのだが、これが特徴的でーー。

これが有名な「ビッグ・スーツ」。

デイヴィット このステージに着手する前、トーキング・ヘッズは日本ツアーをしていて、その滞在中、僕は歌舞伎や文楽といった日本の伝統芸能を鑑賞し、とても感銘を受けたんだ。特に面白いと感じたのは、能の衣装の肩幅が大きく、ほぼ長方形だったこと。そんなある日、友人と「次のツアーではどんな衣装にしようか」という話をしている際、彼が口にした「劇場では、いろんな意味ですべてが現実よりも大きい」って言葉を僕は真に受けてね。だったら現実より大きいスーツを作ろうと思ったわけだ。

出典:Mr.デイヴィッド・バーン、もう一度、『ストップ・メイキング・センス』の話を聞かせてください。

映画のタイトルになっている「ストップ・メイキング・センス」は、この曲の歌詞からとられている。

▼スタジオ音源

15. 「Take Me to the River」

この曲はトーキング・ヘッズがつくった曲ではなく、アル・グリーンのカバー曲。

パーカッション担当のスティーヴ・スケールズが観客を盛り上げるさまもクール。

この曲の最後のブレイクダウン的な部分でバンドメンバーの紹介があるのだが、ティナ・ウェイマスが紹介されるときだけ歓声が異様に大きい。

この途中でデヴィッド・バーンが紅白帽みたいな赤い帽子をかぶるが、途中で脱ぎ捨てる。(ついでにジャケットも脱ぎ捨てる)

16. 「Crosseyed and Painless」

映画のラストを飾る曲で、ステージ上の全員が一体となったパフォーマンスを見せる。

映画の最後では、観客の姿も映し出され、ライブの熱気がわかる(この映画はライブ映画にしては、観客を映し出すシーンが非常に少ない)。

演奏メンバーでない黒衣のクルーたちも、曲の最後で出てきてあいさつする。この演出もかっこいい。

おわりに

ここまで長々と書いてしまったが、百聞は一見にしかずというか、ぜひ実際に映画を見てほしい。

CDも素晴らしいのでぜひ。

「デラックスエディション」には、この記事では紹介しなかったが「Cities(シティーズ)」と「Big Business / I Zimbra(ビッグ・ビジネス / イ・ズィンブラ)」の2曲がボーナストラックとして入っている。

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