不眠の子守唄

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ザ・スミス(The Smiths)の名盤・名曲おすすめランキング【死にたくなったら聴く曲】

「好きなバンド」を聞かれたときに、公言しても何も問題ないバンドと、やや公言するのが憚られるバンドがある。

イギリスのロックが好きだと言った場合、たとえばビートルズは好きだと公言するのに何も問題はない。聞いた人に「何そのバンド?」と思われる恐れもないし、「あんなバンドが好きなのか」と軽蔑される心配もない。

 

一方で、たとえばThe Smiths(ザ・スミス)というバンドは、好きだと公言するのが憚られるバンドの一つだろう。

サッチャー政権下のイギリスで熱烈な支持を集めたこのバンドの曲は、サッチャー批判など政治色を強く打ち出していたり、いわゆる「弱者男性」の自殺願望を歌った曲であったり、ちょっとイロモノ感が強い曲が多い。当然ながら、ボーカルのモリッシーは異性愛者ではない(本人によると「人類愛者」らしい)。

 

しかし、かつてBBCもザ・スミスの「I Know It's Over」という曲が「抑鬱状態に最適」であるという投票結果を報じているように、落ち込んだときに救ってくれるのは意外とこういうバンドの曲なのだ

今回はザ・スミスの名盤をおすすめ度順に紹介し、そのアルバムに収録された名曲について紹介していきたい。

 

※まとめは記事の下の方にあります

1.『The Queen is Dead』

Queen Is Dead

ザ・スミスの最高傑作は、3rdアルバムの『The Queen Is Dead』(ザ・クイーン・イズ・デッド)だと思うし、多くのスミスファンも認めるところだろう。

『NME』誌などはイギリス史上最高のアルバムとしている。もっとも異論は多そうだが。

ジョニー・マーのギタープレイは、本アルバムではアルペジオが多く比較的シンプルだが美しい。そしてボーカルのモリッシーのソングライティングはいつも通り冴えている。アルバムのタイトルは、文字通り王室批判だ。

「There Is A Light That Never Goes Out」

ザ・スミスの最高のアルバムが『The Queen Is Dead』だとすると、ザ・スミスの最高のトラックは「There is a Light That Never Goes Out」(ゼア・イズ・ア・ライト)である、というのもファンの多くの同意を得られるはずである。

君の隣で死ぬことができたらどんなに幸せだろう

と歌うけれど、実際に死ぬのは怖い。

本当に自殺してしまうアーティストの気持ちは理解できないのだが(理解できる時には自分も自殺してしまっているはずなので、当然である)、こういう「死ねたらと思うけれど死ぬのは怖い」というモリッシーの歌詞はリアルで、多くのリスナーを惹きつけている。

「Bigmouth Strikes Again」

このアルバムの収録曲はすべておすすめだが、ここでは比較的キャッチ―な「Bigmouth Strikes Again」(ビッグマウス・ストライクス・アゲイン)を。

イントロのジョニー・マーのギターがいいです。もちろん、歌詞もモリッシー節が炸裂しています。

ああ、今ジャンヌダルクの気持ちがわかった

また先述の「I Know It's Over」もこのアルバムに収録されているが、曲としては単調なのでここでは紹介しない(たぶん、「イギリス人の人生を最も救った曲」として期待すると期待外れに終わってしまいそうなので。聞きたい方はこのリンクから)。

でも、「どんどん頭に土をかけられていくようだ」(=埋葬されてしまう)と訴えるこの曲は、たしかに「抑鬱状態に最適」というのも頷ける。

初見では印象が薄い曲も多いかもしれないけれど、このアルバムの曲は歌詞も含めると本当に捨て曲なしです。何度か聴いてみてください。

 

 

2.『Hatful of Hollow』

Hatful of Hollow

2番目におすすめなザ・スミスのアルバムは、『Hatful of Hollow』(ハットフル・オブ・ホロウ)。日本語でいえば「帽子いっぱいの空虚」といった感じのタイトルだろうか。

このアルバムは、実はオリジナルアルバムではなく、シングルなどを集めたコンピレーションである。しかし、ザ・スミスはシングルの出来が良かったり1stアルバム『The Smiths』の評判がイマイチだったことなどもあり、スミスファンの間では実質2ndアルバムとして評価されている(はずである)。

「How Soon Is Now」

このアルバムに収録されている代表曲の一つが、「How Soon Is Now」

変な曲そろいのザ・スミスの曲の中でも際立って変な曲である。

ジョニー・マーのギタープレイも風変わりだし(ジョニー・マーもオタク気質である)、モリッシーの歌詞はいつもにもまして卑屈である。

恋人がほしいならクラブに行けばいい

君はクラブに一人で行って、一人で突っ立って、一人でクラブを去る

そして家に帰って、泣いて、死にたくなるんだ

「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」

もう一曲紹介するとしたら、「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」。

モリッシーとジョニー・マーが所属レーベルであるラフ・トレードの社長に聴かせたら「これの続きは?」と言われたという逸話を持つ短い曲だが、短い中に美しさが凝縮されている儚い曲である。

善人でも悪人になってしまうような日々を送ってきたんだ

だから、お願いだから、お願いだから、僕の欲しいものを手に入れさせてほしい

このアルバムはコンピレーションなので、『The Smiths』と被っている曲も多い(上で紹介した二曲は被っていない)。

しかし、その場合は別バージョン(『Hatful of Hollow』はジョン・ピール・セッションの音源)であり、一般的には『Hatful of Hollow』のバージョンの方が評価が高い。

3.『Meat Is Murder』

Meat Is Murder (Remastered)

3番目におすすめなのは、ザ・スミスの2作目(『Hatful of Hollow』があるので実質3作目)のオリジナルアルバムである『Meat Is Murder』

日本語で言うならタイトルは「食肉は殺人」。相当クセの強いタイトルであり、このタイトルを見て敬遠する人は、正常な感性の持ち主である。

私も思想のクセの強さゆえに最初はあまり好きではなかったが、今ではこの「魂の叫び」を感じるこのアルバムは好きである。ザ・スミスのアルバム全てに言えることではあるが、「変なものを試しに聴いてみる」感覚で聴いてみてほしいと思う。

「The Headmaster Ritual」

アルバムの冒頭曲である「The Headmaster Ritual」は、サウンドは爽やかなロックだけど、相変わらずタイトルは「校長先生の儀式」とアクが強い。

歌詞はひたすら初等教育の批判。

僕は家に帰りたい、こんなところにいたくない

悪い失敗として教育はもうやめにしろ

後述の『モリッシー自伝』には、公教育の恨みつらみに大量の紙幅が割かれているので、モリッシーの公教育への恨みの深さが窺える。実際、当時のイギリスの教育はひどかったのだろうけれど。

ちなみにこの曲はレディオヘッドもカバーしている

「Barbarism Begins at Home」

『Meat is Murder』はなんとなくアルバム全体に荒々しさがあるが、「Barbarism Begins at Home」などはその典型。

「野蛮な習慣は家庭で起きる」というタイトル通り、過度なしつけや虐待を歌った曲。

殴られるのは何かを尋ねたから

殴られるのは何かを尋ねなかったから

何をしても殴られる

お前がお前だから

歌詞もさることながら、後半のベースとギターの特徴的なパートもクセになる一方、あまり聴きすぎると食傷気味になって気持ち悪くなるのでおすすめしない。

他にも表題曲の『Meat Is Murder』なども肉食について歌った曲で、聴きごたえがある。

 

 

4.『Strangeways, Here We Come』

Strangeways Here We Come (Remastered)

4番目におすすめなのは、ザ・スミスの4thアルバムにしてラストアルバムの『Strangeways, Here We Come』(ストレンジウェイズ、ヒア・ウィ・カム)。

個人的にはかなり好きなアルバム。

このアルバムはザ・スミスのアルバムの中で一番短いが、ザ・スミスの外のアルバムが悪く言えば「どれも似たような曲」なのに対して、けっこう変化を楽しめるアルバムだと思う。

ジョニー・マーの音楽的成長も感じるアルバムなのだが、残念ながらこのアルバムのリリース前にジョニー・マーは脱退してしまった。

「A Rush And A Push And The Land Is Ours」

冒頭曲の「A Rush And A Push And The Land Is Ours」は、独特なイントロから始まる一曲。ブレイディみかこさんの『いまモリッシーを聴くということ』によると、レパラータ(Reparata)というグループの『Shoes』という曲が元ネタらしい(この曲もいい曲でした)。

タイトルは無理やり意訳すれば「突撃すればその土地はわがもの」みたいなニュアンスだが、要するに、「押しが強いやつが勝つ」みたいな意味。

歌詞は失恋して家出した少年が結局家に帰ってくる話なのだが、けっこう馬鹿馬鹿しくて面白い。

突撃すれば、足もとの土地はわがものになるんだ

これまでもそうだったから、これからもそうなのだろう

こうして僕や君よりも醜いやつらが

必要なものを奪って去っていく

ああ、もう恋の話はやめてくれ 苦しい思いはしたくない

「Death of Disco Dancer」

ザ・スミスを初めて聴く人にはおすすめしないが、ある程度ザ・スミスに親しんだ人におすすめしたいのがこの「Death of Disco Dancer」。

ザ・スミスのディスコグラフィの中で唯一モリッシーが楽器(ピアノ)をプレイしているという特異な曲なので、ぜひ注意深く聴いてみてほしい。

このアルバムは他にも「Girlfriend in a Coma」「Stop Me If You Think You've Heard This One Before」(ストップ・ミー)や、「Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me」など、聴きごたえのある曲が多い。

5.『The Smiths』

Smiths

5番目におすすめなアルバムは、デビュー作の『The Smiths』(ザ・スミス)。

正直なところ、悪く言えば全部同じ曲に聞こえるので、あまり初めてザ・スミスを聴くという人にはおすすめできない。

もちろんいいアルバムではあるのだけれど……。

「Still Ill」

このアルバムからのおすすめ曲は「Still Ill」(スティル・イル)。

タイトルの意味は「まだ病気」だが、バズコックスのハワード・デボートの交際相手リンダ・スターリングがモリッシーにかけた言葉「Still Ill?」に由来するらしい。

イングランドは僕のもの、僕を養う責任がある

と述べるこの曲は、「ヨーロッパの病人」と呼ばれたイギリスを歌った曲ともみられている。

「This Charming Man」

あとは「This Charming Man」が代表的な曲の一つ。

「魅力的な男」を歌った曲。実はこの曲の意味するところはいまいち理解しきれていないところがあるのだが、労働者階級の少年に手を差し伸べる魅力的な男を歌ったこの曲は、想像力を駆り立てる曲である。

先述したとおり『The Smiths』の収録曲は、悪く言うと全部同じような曲なのだが、ザ・スミスにはまってくるとそれぞれ違った良さを感じるようになる。

 

 

6.『Louder Than Bombs』

Louder Than Bombs

6番目、というか番外編としておすすめなのが、このアルバム『Louder Than Bombs』(ラウダ―・ザン・ボム)。

シングルを集めたコンピレーションアルバムである。

じつはスミスのシングルを集めたアルバムとしては、イギリスで発売された『World Won't Listen』の方が有名なのだが、アメリカで発売された『Louder Than Bombs』のほうがアルバムの出来として優れていると思う。

理由はいくつかあるが、曲順がこちらの方がいいと思うのと、またオリジナルアルバムに収録されている曲が収録されていないこと、が主な理由である。

「Asleep」

ザ・スミスのシングルのB面は、地味な良曲がたくさんある。

この「Asleep」なんかも典型で、「眠らせてくれ」という、自殺を暗示する曲なのだが、ピアノ主体の美しい曲である。

エマ・ワトソンがヒロインを演じたことでも知られる映画『ウォールフラワー』で、根暗な主人公が愛していたのがこの曲。

「Half A Person」

「地味な良曲」でいうと、この「Half A Person」なんかも。

もし5秒時間をくれたら、僕の人生のすべてを語れます

このアルバムはコンピレーションなので『Hatful Of Hollow』と被る曲も多いが、被らない曲も多いので、両方のアルバムを聴いてもそこまで重複は気にならないはずである。

おわりに

最初に書いたように、ザ・スミスはかなり好みが割れるバンドであることは間違いない

だが、ザ・スミスはイギリスでは多くの人々を抑鬱状態から救ったバンドであり、私もこのバンドに救われた一人でもある。

ぜひ落ち込んだときに、聴いてみてほしい。

 

ザ・スミスの楽曲は、オリジナルアルバム4枚と『Hatful Of Hollow』、そしてこの『Louder than Bombs』を持っていれば、残りの曲は数えるほどである(ライブ音源などを除いて)。残りの曲は『World Won't Listen』のほか『Complete』を聴けばコンプリートできるはずなので、ぜひ聴いてみてほしい。

関連書籍

本文中にも紹介したとおり、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で知られるエッセイストのブレイディみかこさんは、もともと音楽ライターであり、2017年に『いまモリッシーを聴くということ』というモリッシー本を書いている。

ブレイディさんらしくイギリスの社会情勢について言及しつつモリッシーの楽曲を評価しており、おすすめです。

モリッシーのコアなファンには、訳者・上村彰子さんの血のにじむような努力の末に2020年に邦訳が出た『モリッシー自伝』がおすすめ。

本文中にも書きましたが、幼少期に受けた公教育の批判と、マイク・ジョイスとの裁判についての恨みが長すぎて、コアなファン以外はついていけなそうですが、モリッシーに洗脳されたファンにとっては心から面白いです。

モリッシー自伝

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最後に、まとめを置いておきます。

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