死にたくても死ねない弱さを描く名曲―There is a Light That Never Goes Out(The Smiths)

there is a light that never goes out

またミュージシャンの訃報があった。

死を選ぶミュージシャンは昔から多い。

「死にたい」という気持ちは、共感可能である。私だってそういう気持ちは非常によくわかる。

だけど、ほんとうに死んでしまった人については、憧れることはできても共感することは不可能である。私たちは、まだ死んでいない人間なのだから。

そういう意味で、一番共感できるのは「死にたいと思うけど、やっぱり死ぬのは怖い」という感情だろう。

今回は、そういう心理を描いた、イギリスの伝説的ロックバンドThe Smiths(ザ・スミス)の代表曲There is a Light That Never Goes Out(邦題:ゼア・イズ・ア・ライト)という曲について紹介したい。

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暗い社会の、さらに暗い部分

この「There is a Light That Never Goes Out」という曲について軽く説明すると、この曲は先述した通りThe Smithsというイギリスのバンドの曲である。

The Smithsというバンドは、ボーカルのモリッシーというナヨナヨした根暗でドラッグもセックスもしない文学オタクの書く歌詞と、ギターのジョニー・マーによる煌びやかなギターに特徴づけられるバンドだが、サウンドについては実際に曲を聞いてみてほしい。

今回私が書きたいのは、モリッシーの書く歌詞についてである。


The Smiths – There Is A Light That Never Goes Out

なお、この曲は3rdアルバム「The Queen Is Dead」(ザ・クイーン・イズ・デッド)に収録されており、このアルバム「The Queen is Dead」は、イギリスの音楽雑誌(今では音楽サイト)NMEの選ぶ「最高のアルバム500枚」の第1位に輝いている

サッチャー政権下の、弱いイギリス人の精神を体現したアルバムとして、イギリスでは高く評価されているアルバムである。

(ただ、このように歌詞があまりに根暗なので、文化の違うアメリカでは評価されていない。ときどきイギリスとアメリカでは評価される音楽がまったく違うことがあるが、この象徴的な例といえるのがザ・スミスである。)

前置きが長くなったが、この曲の良さについて書いてみたい。

死にたいけど、死ぬのは怖い

この曲の歌詞のサビは、主人公が

「もし二階建てバスが僕たちに突っ込んできたとしても、君の隣で死ねたら、なんて幸せな死に方だろう」

と歌っているフック(サビ)なのだが、私が一番好きなのは、二回目のヴァースである。

死にたいと歌っている主人公。

そして車が暗いガード下にさしかかった時、主人公は「ああ、ついに死ぬチャンスが来たかもしれない」と思う。

「でもその時、奇妙な恐怖が僕をとらえて、死にたいと祈ることはできなかったんだ」

そして、主人公は「僕を連れて行って」と歌う

「あそこには明かりがあって、それは決して消えることはないんだ……」

――この部分の英語詞は「There is a light and it never goes out」

余談だが、フジロックでジョニー・マーがこの曲を披露していたとき、シングアロングで観客も歌ったのだが、ほとんどの観客がここの歌詞をタイトル通りの「There is a light that never goes out」と間違えて歌ってたのでちょっと私はイラついた。タイトルは「that」ですが、歌詞は「and it」ですので。

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「どこまでも弱い人間」を描く

少し話が逸れたが、私が一番共感する「There is a Light That Never Goes Out」の歌詞は、先ほど書いた「死にたくても死ねない」という部分である。

人生に絶望して死にたいと思っているけれど、実際に死ぬのは怖い。

感じ方は人それぞれだと思うが、私はこのような歌詞に非常に共感できる。

死にたくて、本当に死んでしまうという人もいる。

だけど、私は死にたくても死ぬことはできない。だから、この歌詞に共感する。

「死ぬ」というのは、ある意味強い人間にしかできないのではないかと思う。死ぬことができないくらい、弱い人間もいるのではないだろうか。

そんな「どこまでも弱い人間」を描いたのが、The Smithsであり、モリッシーなのである。

最近の政治的言動は迷走しつつあるモリッシーだが、「生き方」についての歌詞は一番共感できるミュージシャンである。

「The Queen is Dead」すなわち「女王は死んだ」というタイトルはちょっと敬遠してしまうかもしれないが、自分が「死にたいけど死ぬ勇気がない」と思うような人は、とりあえずこのアルバムを何周か聴いてみてほしい。

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▼関連する書籍

イギリスでの中学生の息子との生活を綴ったエッセイ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で、最近一挙にブレイクしたブレイディみかこさんは元々音楽ライターで、『いまモリッシーを聴くということ』という本も書いている。

モリッシーのザ・スミス時代からソロ活動までの軌跡を追って全アルバムを取り上げた本だが、当然『The Queen is Dead』を紹介する際に「There is a Light That Never Goes Out」にも言及している。モリッシーや、ブレイディみかこさんに興味がある方におすすめ。

▼モリッシーのコアなファンには、2020年に邦訳が出た『モリッシー自伝』がおすすめです。モリッシーの愚痴が多すぎてコアなファン以外には薦められませんが、コアなファンにはかなり面白いです(マイク・ジョイスとの裁判についての記述にかけた熱量をスミス時代の記述に割いてほしかったですが……)。

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