1990年代のイギリスは、「イギリス的」な音楽が盛んになった時代で、オアシス、ブラーに代表される数々のバンドが興隆した。この一大ムーブメントは「ブリットポップ」と呼ばれるが、私はこの時期の音楽を愛している。
というわけで、今回はブリットポップの個人的な名盤20選を紹介したい。
アルバムに収録されているおすすめの名曲も、1曲ずつ紹介していきたい。
なお、この記事における「ブリットポップ」は開始がSuedeの「The Drowners」(1992年)、終焉がBlurの『Blur』(1997年。このアルバムはブリットポップに含まない)ということにした。
この時期に発表された、この時期の若手バンドのアルバムをランキングの対象としている。
1.Pulp『Different Class』
1位は、パルプの『Different Class』。
タイトルの『Different Class』は、代表曲「Common People」がそうであるように、「違う階級」という意味(=要するに階級社会への揶揄)も含まれているが、「別格に良い」という意味での「違う階級」という意図も含まれたダブルミーニングである。
このダブルミーニングのタイトルは本当に素晴らしいと思う。
このアルバムが「ブリットポップ一番の名盤」である理由は、優れたポップなメロディにもあるが、それ以上にシニカルで非常にイギリス的な歌詞にある(パルプは、ジャーヴィス・コッカ―というフロントマンの作詞能力が非常に優れている)。
ただの「名盤ランキング」だったらオアシスの『モーニンググローリー』に勝てないが、「ブリットポップの名盤ランキング」なら絶対に1位にしたい。そんなアルバムである。
おすすめ曲:Disco2000
2.Blur『Parklife』
2位はBlur(ブラー)の『Parklife』。
ブラーの良さも、中産階級的なシニカルでウィットに富んだ歌詞にある。歌詞もサウンドも、中産階級のブラー、労働者階級のオアシスというようにライバル関係にあった。
サウンドにはやや古さを感じざるを得ないが、若々しさと不思議な浮遊感がある。ブリットポップブームを巻き起こしたアルバムとして、本作の評価はゆるぎない。
おすすめ曲:End of Century
3.Oasis『(What’s the Story)Morning Glory?』
3位は、Oasis(オアシス)の『(What’s The Story) Morning Glory? 』。
「ブリットポップ」という枠をとっぱらって、純粋にアルバムランキングを作るとしたらこのアルバムが1位になるかな? パルプやブラーに比べるとシニカルさはないが、労働者階級の荒々しさ光る。
おすすめ曲:Don’t Look Back in Anger
4.Suede『Dog Man Star』
4位は、Suede(スウェード)の『Dog Man Star』。
スウェードは、ブリットポップを巻き起こしたともいわれるバンド(本記事もその見解に依っている)。特徴的なのは、中性的なボーカルであるブレット・アンダーソンである。中性的で、デヴィッド・ボウイの流れを汲むカリスマ性を持った彼の登場により、イギリス的なロックが息を吹き返したともいわれている。
彼らの2ndアルバムが、この『Dog Man Star』である。アルバムジャケット通りの、耽美的で妖しいサウンドが鳴り響くアルバム。ギターのバーナード・バトラーの高い力量が表れている。
なお、ここまで紹介したスウェード、ブラー、オアシス、パルプは、「ブリットポップ四天王」と呼ばれている(要出典)。
おすすめ曲:New Generation
5.Radiohead『The Bends』
Radiohead(レディオヘッド)は、それ以降に辿った道が他のブリットポップバンドとは明らかに一線を画しているので、ブリットポップバンドには分類されないことも多い。
しかし、内容を考えると『The Bends』はブリットポップに分類してもいいだろう。
レディオヘッドは難解な音楽のイメージがあるかもしれないが、『The Bends』は非常に良質なギターポップである。もちろん『OK Computer』以降のアルバムも素晴らしいのでは、ギターポップを愛するものとしてはレディへが『ザ・ベンズ』路線を続けるのを見てみたかったりもする。
おすすめ曲:High and Dry
6.Oasis『Definitely Maybe』
6位はOasisの『Definitely Maybe』。
オアシスの1stアルバム。正直玉石混淆の感もあるアルバムだが、サウンドの若々しさと瑞々しさは他の追随を許さない。
こういうビートルズをリスペクトしたバンドが、1990年代のイギリスに生まれたことには感慨すら覚える。
おすすめ曲:Supersonic
7.Manic Street Preachers『Everything Must Go』
7位はManic Street Preachersの『Everything Must Go』。
マニックストリートプリーチャーズは他のブリットポップバンドと比べるとブレイクが若干早いため「ブリットポップ」の枠に入らないこともあるが、ここではブリットポップバンドとして扱った。
マニックスは、ギタリストで作詞を担当していたリッチー・エドワーズが失踪(マジの失踪)したにもかかわらず、このアルバムで復活を果たした。
おすすめ曲:A Design for Life
13.Blur『Modern Life is Rubbish』
8位は、Blurの2ndアルバム『Modern Life Is Rubbish』(ブリットポップのアルバムとしては最初のアルバム)。
ブリットポップブームの基礎を作ったと評されているアルバム。タイトルの「Modern Life is Rubbish」(邦訳すれば「現代の生活はゴミ」となる)にもあからさまに表れているように、イギリス的皮肉が良く表れている。
ブラーのデーモン・アルバーンは、失敗に終わったアメリカツアーの反動で「イギリス的」なアルバムづくりに没頭し、ブリットポップの牽引者になった。
サウンドはシンプルで、やや地味な面もあるが、聞き飽きずいつまでも時代遅れにならないようなアルバムである。
おすすめ曲:For Tomorrow
9.Ash『1977』
9位は、Ash(アッシュ)の『1977』。
10代の若者たちが出したアルバム、とは思えないほどソングライティング能力が高い。
「Girl from Mars」にたいなセンチメンタルな曲も書けるし、年相応の「Kang Hu」みたいなふざけた若々しさ爆発の曲もある。こういうアルバムを10代で出せる人生を送りたかった。
おすすめ曲:Girl from Mars
10.Suede『Suede』
10位はSuedeの1stアルバム、『Suede』。
「ヤバいアルバムジャケットランキング」 を作るとしたら絶対に上位にランクインする、男と男(兄弟だろうか?)がキスをしているアルバムジャケット。
曲の内容も挑発的で、近親相姦を歌った「Animal Nitrate」や獣姦を歌った「Animal Lover」などけっこうヤバい曲が並ぶが、こういう衝撃的なバンドが表れたからこそムーブメントが思ったのかもしれないと思わせる。
おすすめ曲:The Drowners
11.The Auteurs『New Wave』
11位からは少しマイナーバンドも入ってくる。
11位はThe Auteurs(オトゥールズ)の『New Wave』。
あまり知名度はないと思うが、Suedeとほぼ同時期にデビューしたバンドである。このアルバムは、10位に挙げたSuedeの『Suede』とほぼ同格の評価を当時は得ていた。
サウンドの特徴は、後期アークティック・モンキーズにも通じるおしゃれ系のサウンド。しかし、悪く言えば地味で、それが彼らを伝説のバンドにできなかった要因かもしれない。
おすすめ曲:Showgirl
12.Elastica『Elastica』
12位はElastica(エラスティカ)の『Elastica』。
ややパンク系の感じで、あんまりイギリスっぽくはない気もするが(おかげでアメリカでも割と売れたらしい)、ブリットポップバンドとして彼女たちは絶対に外せない。
なぜなら、エラスティカのボーカルであるジャクリーン・フリッシュマン(下の動画を見ればわかる)は、ブリットポップの超重要人物だからである。
彼女は、当時ブラーのフロントマンであるデーモン・アルバーンと交際していたうえに、スウェードのフロントマンであるブレット・アンダーソンの元カノだったからである(さらに、オアシスのフロントマンであるリアム・ギャラガーからもよく求愛(セクハラ)されていた)。
楽曲は今聴くと、代表曲以外は微妙なものもある気がするが、こういうバンドの女性ボーカルは割と珍しい。近年再評価が進んでいるバンドである。
おすすめ曲:Stutter
13.Blur『The Great Escape』
13位はBlurの『Great Escape』。
ブラーが商業的に一番成功したのはこのアルバムで、バンドの輝きを感じる。
前半だけ見ると『Parklife』を超えているが、後半やや失速気味な気がするのでこの順位にしてしまった。もっと順位が上でもよかったかな?
おすすめ曲:Charmless Man
14.Shed Seven『A Maximum High』
14位はShed Sevenの『A Maximum High』。
個人的にシェッドセブンで一番好きな曲はこのアルバムの発売直後のシングル「Chasing Raimbows」なのだが、この曲が収録されたアルバム『Let It Ride』は今回の記事のブリットポップの定義に外れてしまうのでこちらを紹介した。
今は「オアシスの元ライバル」くらいの位置づけでしかない彼らだが、サウンドはシンプルでポップなギターサウンドで、1990年代のブリットポップブームの雰囲気を知るには一番のバンドな気もする。
このバンドのおすすめ曲:Chasing Raimbows
15.Cast『All Change』
15位はCast(キャスト)の『All Change』。
キャストというのはThe La’as(ザ・ラーズ)と言うバンドのベーシストだったジョン・パワーを中心に結成されたバンド。このバンドもシンプルな聴きやすいギターポップを奏でる。
おすすめ曲:Alright
16.Pulp『His ‘N’ Hers』
16位は、パルプを一躍有名にした『His ‘N’ Hers』。
チープなサウンドだが、歌詞の良さはこの時点から突出している。
『Different Class』のところでも書いたが、本当に歌詞がいい。
▶関連記事:『ジャーヴィス・コッカーは史上最高の作詞家である』
おすすめ曲:Babies
17.The Bluetones『Expecting to Fly』
17位は、The Bluetones(ブルートーンズ)の『Expecting to Fly』
オアシスの『モーニンググローリー』をチャート1位から引きずり落したアルバム。
シェッドセブン、キャストあたりとよく区別がつかなくなる。
おすすめ曲:Slight Return
The Bluetones – Slight Return (Live on Jools Holland, grainy VHS rip)
18.The Boo Radleys『Wake Up!』
18位は、Boo Radleysの『Wake Up! 』。
ブラスなども入った明るい曲調と、ハゲのボーカルが特徴のバンド。アルバム冒頭を飾る「Wake Up Boo!」という曲は「史上もっとも気分がよくなる曲」としても知られている。
ちなみに、このバンド名と曲名は『アラバマ物語』に由来する。
おすすめ曲:Wake Up Boo!
19.Supergrass『I Should Coco』
19位はSupergrass(スーパーグラス)の『I Should Coco』。
ジャケットのイラスト尾通り、このアルバムは若くて瑞々しい感じだが、ブリットポップブーム終焉後もスタイルを変えながら活躍したバンドなので知名度は高いかもしれない。
おすすめ曲:Alright
20.Gene『Olympian』
20位は、Geneの『Olympian』。
ザ・スミスの真似をしたバンド。パクリバンドといえばそれまでだが、スミスの真似をしたバンドの中で一番成功したバンドでもあることに疑いの余地はない。大したことのない曲も多いけど、いい曲もある。アルバム冒頭を飾る「Haunted by You」はかなりの名曲。
おすすめ曲:Haunted By You
おわりに
というわけで、ランキングは以下の通りです。
長々とお付き合いいただきありがとうございました。
- 1.Pulp『Different Class』
- 2.Blur『Parklife』
- 3.Oasis『(What’s the Story)Morning Glory?』
- 4.Suede『Dog Man Star』
- 5.Radiohead『The Bends』
- 6.Oasis『Definitely Maybe』
- 7.Manic Street Preachers『Everything Must Go』
- 13.Blur『Modern Life is Rubbish』
- 9.Ash『1977』
- 10.Suede『Suede』
- 11.The Auteurs『New Wave』
- 12.Elastica『Elastica』
- 13.Blur『The Great Escape』
- 14.Shed Seven『A Maximum High』
- 15.Cast『All Change』
- 16.Pulp『His ‘N’ Hers』
- 17.The Bluetones『Expecting to Fly』
- 18.The Boo Radleys『Wake Up!』
- 19.Supergrass『I Should Coco』
- 20.Gene『Olympian』
▼本記事は本書に依拠しているわけではないが、ブリットポップのディスクガイド
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